雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫)
雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫) / 感想・レビュー
アキ
短編小説史上最高とも言われる「雨」。雨季のサモアで降る雨は、原始的な自然の力だけでなく、人間の欲望をも呼び覚ます。医師兼宣教師が悔い改める娼婦と一晩を祈りと共に過ごすうちに、過ちを犯し自死を選ぶ。娼婦が男なんて皆んな一緒よと叫ぶ結末は、どうしようもない男という悲しき性を示す。ただ、この話の語り手は同僚の医師であり、信頼できない語り手の可能性も否定できない。「赤毛」のラストにも愛する男女の数十年後という鮮やかな落ちがある。他に「ホノルル」もラストの返しが秀逸。いずれも1921年「木の葉のそよぎ」短篇集から。
2022/10/01
NAO
再読。モームの南洋もの三篇。『雨』狂信的な宣教師の特権を振りかざした独善的・高圧的な態度と、人々の神経に触る、激しく、しつこい雨の描写が見事に呼応し合い、宣教師の破滅へと突き進んでいく。『赤毛』の、あまりにもロマンチックな話と最後の落差といい、『ホノルル』の最後といい、イギリスの諜報部員だったというモームは、人間の感情に対して全く信用をおいていなかったのだろうか、と思う。
2019/06/06
やきいも
恋愛ものの短編の『赤毛』が深く心に残った。読みはじめは少し退屈なんだけど、ロマンティックな中盤からほろ苦い結末までストーリーもとても印象深い。本文の中にも心ひかれる一行がいくつかあった。有名な短編『雨』もなかなか良かった。これから何回も読み返すであろう短編集。
2015/08/07
Kajitt22
南の島が舞台の短編。『月と六ペンス』の熟れた熱気の中の緑濃いモーレア島の描写を思い出した。あのストリックランドの狂気とも思えるシリアスな生き様に胸を打たれたが、これらモームの短編にはアイロニーとユーモアの色合いが濃い様に思う。しかし、それこそが人間モームそのものかも知れない。物語の語り口には、思わず引き込まれてしまう三つの短編でした。
2021/05/18
こばまり
なんと皮肉屋でロマンチストか。100年近く前に書かれていながら、今尚読者の心を掻き乱すのは人間が描けているからだとシビれまくり。もっと早く読めばよかった。それとも今読むから沁みるのか。聞けばモーム先生は最大の短編作家にモーパッサンを挙げている。なるほど大いに納得。
2016/06/05
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