停電の夜に (新潮文庫)
停電の夜に (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作を含め9つの短篇を収録。原著のアメリカ版では「病気の通訳」が作品集のタイトルに採られていたようだが、邦訳版では「停電—」の方を採った。日本での売れ行きを考えれば妥当な選択だったと思う。9篇のいずれもそれぞれに味わい深いが、例えば上記の2作が持つ些細な心のすれ違いの中に人生を浮かび上がらせるといった手法は、これまでのどの作家のそれとも違っているようだ。また、作品集全体に貫流する異文化感も得難い味わいである。とりわけ巻末に置かれた「三度目で最後の大陸」は、読者をせつない郷愁のような感情に巻き込んでいく。
2017/09/06
のっち♬
「停電の夜は特別な夜になった」9編の多くがインド系アメリカ人に焦点が置かれており、生まれ育った土地とアメリカの文化的価値観の相違と対峙する移民の生のジレンマ、家族内の亀裂や軋轢などを平易な言葉遣いと繊細な語り口で綴っている。とりわけ結婚生活や不倫など男女のすれ違いを扱うことが多く、登場人物たちの日々の葛藤、奮闘、不安、そして偏見などを時間の経過とともに緻密な観察力で丹念に追っており、劇的な展開がないのに視点移動も巧みさもあって引き込まれる。「どれだけ普通に見えようと、私自身の想像を絶すると思うことがある」
2020/04/23
はっせー
海外文学の短編集の中で今まで読んだことないような読後感である!9つの短編がこの本に入っている。この9つの短編の共通点はありそうな日常である。だがありそうな日常をただ書いただけならここまですごくはならない。緩急のある表現や奥行きのある世界観この2つが秀逸である。私個人のおすすめは『停電のよるに』『三度目で最後の大陸』である。停電の時間にお互いの秘密を言い合う夫婦。6週間だけ住んだアパートの話。おちがないがそれが心地よい。久しぶりに名著に出会えて本当に良かったと思える作品であった。 また読みたいと思った!
2020/09/13
❁かな❁
ずっと前から読んでみたいなと思っていたジュンパ・ラヒリさんの短編集*アメリカで暮らすインド系の人々などの生活を洗練された無駄のない綺麗で緻密な文章で描かれる。結婚生活での夫婦の心のすれ違いなど、丁寧に静かに淡々と語られていく。9つの短編が収められていて、1つ1つ短いのに読み終える度にその深い余韻に浸ってしまい、少しずつ何日もかけて読みました。特に印象に残ったものは「停電の夜に」「ピルサダさんが食事に来たころ」「病気の通訳」「セクシー」「三度目で最後の大陸」。ラヒリさんの世界観を堪能できる贅沢な作品集*
2015/09/05
Major
翻訳もすぐれているのだろう。無駄な装飾のない簡潔な短文でテンポよく展開されていく。言わずとも知れた短編の名手O・ヘンリーのように、殊更にペーソス、ヒューモアあるいは温かみがシーズニングされているわけではない。また、もう一人の短編の名手サキのように奇異で冷笑的な作品でもない。しかし、ラヒリのこの短編集は彼らの作品群と比べても何の遜色もない。一口に言って「少し苦い作品」なのである。それでいて読後に何かしら心地よい風を感じさてくれる短編集である。3つのコメントに続く
2017/08/28
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