孤独なハヤブサの物語 (新潮文庫 カ 26-1)
孤独なハヤブサの物語 (新潮文庫 カ 26-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
著者のガーゾーンは、元カトリックの司祭。ただし、本書の世界観はむしろ汎神論的なものに見えるし、太陽崇拝など異教的な要素もそこには垣間見える。また、孤独なハヤブサの姿は修行僧(それもやはりカトリックのというよりは仏教の)を思わせる。肉食の宿命を負ったハヤブサが、そこから脱却しようと懸命にもがく姿は、滑稽でこそないが、やはり一種の"哀れ"を表象するし、それは孤高であることの代償ででもあるかのごとくだ。そして、物語の終幕は「武士道とは死ぬことと見つけたり」と達観した『葉隠』を想起させたりもするのである。
2017/02/10
やすらぎ
ハヤブサは常に孤独だ。カラは初めて空を見上げた。こんなに高く青かったのか。獲物を目の前にして奇妙な哀れみを抱くようになってしまった。何かが変わった。気づいてしまったのだ。このままでは生きていけない。金色の太陽に目を覚ました。夢のような一日の始まりだった。本能はどこかへ消えてしまった。あらゆる音が聞こえてくる。自然はこんなに美しかったのか。冬の静寂に喜びを感じていた。この感情は何だ。なぜこんなに包み込まれるのか。熱い。なぜか熱い。太陽はこんなにも眩しかったのか。誰もが恐れない愛と友情が生まれた深い森の物語。
2023/02/05
新地学@児童書病発動中
孤独なハヤブサのカラが、ある日自分の生き方に疑問を覚える。生きるために他の生き物を殺すことに、罪の意識を持つようになるのだ。宮沢賢治の「よだかの星」を思い出した。ただし、この物語は、賢治の作品ほど重苦しい内容ではない。救いが用意されている。それでも人生の真の意味を考えさせる優れた寓話だと思う。他の生き物を傷つけないと決めたカラが、青空の美しさに気づく場面に、ひどく心を動かされた。結末まで読むとキリスト教的な物語だと気付くが、説教臭いところはなく、全ての人に開かれた内容を持っていると思う。
2017/03/12
ペグ
(孤独)でハヤブサで(鳥)で(物語)!自分の好きなWordが題名になっていて、しかも訳者が沢木耕太郎さん!題名はかすかに物語を垣間見せるけれど、やはり一個の手引きに過ぎず、じっと読み手を待っている。この本は何年、わたしの本棚で待っていてくれたのだろう。本は寡黙で、開いて読み始めた瞬間に語り出す。話は主人公カラの心模様と行く末だ。余韻を残し読む者に結論を託す。挿絵も美しくきっと何度も読みたくなる一冊。
2018/12/28
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
タイトルと訳者が沢木耕太郎さんというので手にした作品。孤独で誇り高きハヤブサのカラ。ふとした出来事がきっかけで彼は心に誓う。「もう二度と生き物を殺すことはしない。例え生きるためであっても」孤独なハヤブサのもとに次第に仲間が集まっていく。これは大人に向けたファンタジーだ。自分の生き方を変えることの喜びと苦しみ。得るものと無くしていくもの。自分にとって変えていかなくてはならないもの、変えてはいけないものは何だろうか?★★★+
2016/08/28
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