偽りの街 (新潮文庫 カ 18-1)
偽りの街 (新潮文庫 カ 18-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
時は1936年。ベルリンオリンピックの年だ。舞台はまさにそのベルリン。ヒトラーとナチスの絶頂期か。私立探偵グンターが依頼された事件の調査は次々と膨らんでゆく。そして、そのあちこちにナチスが立ち現れてくる。ナチスの影などというものではなく、まさに狂暴さをむき出しにしたナチスそのものだ。全編のどこをとっても、これぞハードボイルドなのだが、なんとも痛みを伴うそれであり、痛快さはない。とりわけ終結部に向かう辺りからはもはや悲痛とでも言うべきものだ。インゲ、君は今どこでどうしているのだろう。
2019/06/14
hit4papa
タフなへらず口探偵といえばハードボイルドの定番ですが、ナチスの力が強力になってきている世情を背景としているため、本作品は、他とは異なる緊張感を保っています。ベルリン・オリンピックを演出に使うなど、時代のトピックスを取り入れたの描写がとても巧くて、これが、読み手に恐怖心や閉塞感を痛いほどに印象付けるのです。主人公が、真っ向から、反ナチス、ユダヤ人擁護といった姿勢を打ち出していないところも、この時代も感性としては、納得性が高いですね。時代に押しつぶさそうになるギリギリで苦闘する主人公の生き様に惹かれます。
2019/10/21
ペグ
「屍肉」でフィリップ カーのファンになり、又も東江さんの訳!第二次世界大戦前のベルリンを舞台に私立探偵ベルンハルト グンターが富豪のジクスから依頼された事件は後にヒムラーや、あのH(!)まで登場し、やはり軽く収まる話では無かった。グンターの諧謔、皮肉に辟易とする方もいらっしゃると思ったけれど、こういう表現でしか生きられない社会は辛い。そしてこの手の会話文は東江さん独特の水を得た魚のように冴えた言葉が光り、わたしは大好き!これぞ東江流。それにしても表紙の写真の意味がわからない。二作目で明らかになるのかな?
2017/07/06
白玉あずき
なんと後味の悪い。関係者があらかた非業の死を遂げ、ゲシュタポやらナチス信奉者ばかりがおぞましい特権を振るう恐怖世界が残った。主人公の繰り出す皮肉も蟷螂の斧、個人の無力を際立たせるばかり。こんな世界じゃ、すぐ顔に出る私なんぞ即日収容所送りに違いない。上から下までわいろが横行するのにもびっくりだ。この腐った世界で主人公が筋を通し矜持を守る意味って、ハードボイルドを成立させるためにだけか?シリーズ次巻へ続く謎を残したままだが、よっぽど元気でないと読めないかも。ドイツ敗戦後のグンターの在り様には興味がある。
2019/08/06
chiseiok
やっと読めた^^;。チャンドラー云うところの『卑しき街を往く孤高の騎士』の物語がハードボイルドの本質とすれば、本作の”1936年ベルリン”はその時代も含めまさにどんぴしゃの舞台なのでしょう。ただし主人公の諧謔、皮肉、減らず口が多すぎて(訳の東江さんも辛楽しかったのではw)どうにも見晴らしが悪い。中盤までの展開のじれったさも含めコナリーの初期ボッシュ・シリーズにやや似ているけれど、ちょい負けてるかも。…と、色々云ってますが、物語自体は魅力的。解決していない謎もあるし、続巻は読まざるを得ないでしょうなー。
2017/04/24
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