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ティンブクトゥ (新潮文庫 オ 9-13)

ティンブクトゥ (新潮文庫 オ 9-13)

ティンブクトゥ (新潮文庫 オ 9-13)

作家
ポール・オースター
Paul Auster
柴田元幸
出版社
新潮社
発売日
2010-06-29
ISBN
9784102451137
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ティンブクトゥ (新潮文庫 オ 9-13) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

これはティンブクトゥ(西アフリカ・マリの交易都市)を舞台にした物語か、あるいはその地に向かう旅を題材にした物語だとばかり思って購入。実際は、まったく期待を裏切られたのだが。ただし、その期待の裏切られ方は、けっして悪いものではなかった。これは、犬の視点から語られるアメリカ版"I am a dog."の物語なのだが、全編を通して独特の哀しみがつきまとう。彼は言う。「求められていると感じられるだけでは犬の幸福は成り立たない。自分は欠かせないという気持ちが必要なのだ」と。遥かな地ティンブクトゥに行けたと信じたい。

2012/10/09

白のヒメ

犬を後に残して飼い主の自分が先に死んでしまうほど辛いものはないだろうと心底思う。人を愛することのために生まれてきた犬を一人ぼっちにしてしまうことほど。これは一人の愚かな飼い主が犬を残して先に死んでしまい、その後犬がどうなったかを追った物語。「星守る犬」を思い出す。映像化されて西田敏行がこの作品と同じような主人公を演じていた。この本と同じに人間の愚かさと犬の無垢さの対比が心をえぐった。文中に犬が「天使」と例えられている。私も普段自分の飼い犬を見て全く同じことを思う。犬は神様が人間に遣わしてくれた天使だと。

2015/11/15

トラキチ

原題“TIMBUKTU”、柴田元幸訳。犬目線の物語という予備知識があったので読むのを敬遠していたのであるが、もっと早く読むべきだったと後悔するほど素晴らしく作者及び訳者の底力を感じる作品であった。 ミスター・ボーンズは姿は犬であるが、飼い主である個性派詩人ウィリーに対する愛情は人間以上であるのが読んでいて伝わってくるのですね。そしてタイトル名となっているティンブクトゥという世界が何であるかということが本作を読んで読者さえもが昇華させられた気持にさせられます。

2014/09/12

meri

「トンブクトゥ」はアフリカに実在する世界遺産である。かつてそこはアフリカとムスリム、キリスト教が混在した貿易の要であり、その長い行程から「桃源郷」の意もある。作中では「あたかもその言葉自体がひとつの約束であり、この先によりよき日々が控えているかの保証でもあるように」(63)死後のユートピアとして想起される。人はどのように生きるべきか。「運命」に対しどうあるべきか。登場人(犬)物が迷えるユダヤ人と雑種犬であることも偶然ではないかもしれない。彼らがこの世のしがらみを超えた「約束の地」で再び出会えることを願う。

2017/01/09

nobi

Timbuktuって心和む呪文のような響きがいい。このアフリカのかつての桃源郷に行くのに現代アメリカのこの登場人(犬?)物達は、かなりみじめな思いをするけれど、一人ではない。NY3部作のような一人称の語りが延々と続く息苦しさはなくて、話しかけることで不幸は相対化され幸福は共有化される。時に散文詩のような言葉の炸裂と密度の高さがあり、日常の風景に哲学的思弁をぶつけて来る遊びがある。その間合いの翻訳も見事。ミスター・ボーンズ、原文ではdogとかheが、いつのまにかIになっている?その彼に心寄せて行く私がいる。

2015/10/17

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