メリー・スチュアート 下巻 (新潮文庫 B 4-10)
メリー・スチュアート 下巻 (新潮文庫 B 4-10) / 感想・レビュー
ぱなま(さなぎ)
国王の処刑という一大事件は歴史上繰り返されたゆえにありふれた幕切れのように感じていたが、公の処刑で王の血が流れるのは彼女が転換点であったということに気づかされる。エリザベスの逡巡の理由は、彼女自身の慎重な性格、女王としての良心、後世の評価、そして王権への配慮など様々考えられるし、その全てが少しずつ真実でもあったのだろう。作中でもマクベスやリチャード三世への言及があるが、非道徳的な陰謀が政治手段のひとつとして目の当たりにされてきた時代に、これらの陰影を浮き彫りにする作品が生まれたのは必然のように思われる。
2019/03/21
kaoru
通読して、メリーは女王であるには冷徹さが足りず情熱に生きる女性だったと思わされたが、それ故に人びとは彼女を忘れないのだろう。恐ろしいスパイ網や彼女を貶めようとする陰謀の前にはメリーはほとんど無力であった。エリザベスの憂いや焦りをよそに、メリーはただ誇り高く死んでいこうと決意する。覚悟を決めてから処刑までの彼女の「自己演出」とも呼べる描写の細かさには圧倒される。それを阻もうとする新教側の手の込んだ妨害も。宗教対立はつまり権力同士の対立。結局、廃位はされてもメリーの血がイギリス王室に受け継がれることになった。
2019/03/22
しろうさぎ
ダーンリー殺害からイングランド逃亡までの劇的展開は、作者ならではの筆致だ。上巻で人物像の決めつけがやや行き過ぎかと感じた点も、ここでの効果を上げるためと気づく(前書きに続く登場人物紹介も演劇形式だった)。シェイクスピアがこの事件に多大な影響を受けたのも納得する。それにしてもこの時まだ25歳。普通の人なら若気の至りの色恋沙汰で済むところが、立場故に大事になってしまった。エリザベスが彼女を適当にあしらってすぐ大陸へ放逐していたら、ここまで歴史に残る存在にはならなかったという見解に、目から鱗が落ちる思いだった。
2021/09/06
isbm
★★★
2021/08/19
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