飛ぶ男
飛ぶ男 / 感想・レビュー
えか
安部公房の死後に発表された未完の長編小説。なので、ところどころ、未だ推敲されていない、未完成とおぼしき部分が散見される。例えば、主人公と女性の視点が混濁していたり、テキストの挿入が唐突であったり、明らかに、書き込みの足りない描写や、まだ削り足りていない余計な文章があったりするが、実はそこが面白かったりもする。更に、ラストは、登場人物の一人、小文字さんの途切れ途切れの文章が続くが、それがまるで、直前に眠りに入る主人公の夢の断片に見えてくる。カフカを愛した作家の最後に相応しい、カフカ的未完成交響曲であろう。
2024/09/23
キジネコ
喩えて云えば蛇が己の尻尾を呑んで虚空に消えてしまうのを見せられた様な不快と困惑が残りました。収められた二編は舞台俳優たちの所作表情が観得る様な「さまざまな父」と作家の遺品から見つけ出した草稿に他人が加筆して尚、未完のままの「飛ぶ男」。それは安部公房の物語から推して量れば完品とは程遠い素描。この二つが並べて収められた事で始まる共振の不気味が私に感染する。永遠に与えられぬ解、魔術使いの掛けた開かずの封印の謎、解毒の叶わぬ杯の誘惑。判断の覚束ない私に誰かの哂声が聞こえる。そっと置かれた三つ目の小瓶をあおれと…
2016/09/14
ころこ
『終りし道の標べに』で書きつけられたノートのように、死後みつかったフロッピーディスクの中にあった未完の小説。「飛ぶ」という感覚は痛みと共にあります。不審者として空気銃で狙撃された痕を治療することで、かえって身体性は強調されます。マジシャンが行なう「スプーン曲げ」と同じく、イカサマである濡れ衣を掛けられます。その少年は弟だったり、父の存在が仄めかされていたりするのは、家族からの反発により「飛ぶ」ための助走だったに違いありません。「飛ぶ」ことだけは、あらゆる前提条件を度外視した真実であることを証明するために。
2019/04/08
Ayumi Katayama
前世紀に買って読んだ本。再読。よく覚えている。それほどに印象深い。タイトルは『飛ぶ男』。安部公房である。だから、本当に、飛ぶんである。もう、のっけから飛ぶんである。出だしがこうだ。『ある夏の朝、たぶん四時五分ごろ、氷雨本町二丁目四番地の上空を人間そっくりの物体が南西方向に滑走していった。』 読み出したら止まらない。めっぽう面白い。ところが、である。未完なのだ。まだ完成していないのである。途中。尻切れとんぼ。最後の『15』ってな、何だ。ああ、もう、続きが読みたくてたまらない。
2020/08/30
阿呆った(旧・ことうら)
安部公房、未完の遺作。「いるはずのない弟」が空を飛びながら、携帯電話で連絡してくる話。設定が相変わらずぶっとんでいます。途中まででプツリと切れてしまっていて残念ですが、最期まで作品を作られてたんですね。
2015/09/10
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