ハムレット日記
ハムレット日記 / 感想・レビュー
松本直哉
著者の筆にかかると、主人公の原作における奇矯なイメージは後退して、マルティン・ルターの活躍するヴィッテンベルクで新しいキリスト教の薫陶を受けつつも、当時のノルウェーとデンマークと英国の合従連衡の渦中で悩み、デューラー的メランコリアに沈潜するルネサンス的人間でもあるという、多様な側面を見せる近代人となるが、それだけに一層、父王の亡霊の投げかける死の影の迫真性はかえって際立つ。著者自身の、死と隣り合わせの従軍経験、狂気と正気のはざまでぎりぎりの生を生きたこと、それがハムレット像に投影されているようにも思える。
2022/02/06
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