実験
実験 / 感想・レビュー
i-miya
2013.04.06(初著者・初読)田中慎弥著。 (カバー) 新作が書けない小説家、下村。 下村に届く旧友春男の近況、鬱病になったという、30歳過ぎで。 引きこもる春男を案じ、相談に来る両親。 下村は、新刊が書けない、苦労している。 うつ病という現代的な問題をかかえる旧友の話がある。 下村が思いついたある「実験」・・・。 潮風と砂の町、孤独と平和の泥濘。 人々の精神の危機。 他2篇。
2013/04/06
うしこ@灯れ松明の火(文庫フリークさんに賛同)
「実験、汽笛、週末の葬儀」の全3話。どの話も読了後は息苦しい。 「実験」は作家の書くことのできない苦しみ。そして非情になりきれないもどかしさ。何かを成し遂げる為にどこまで非情になれるのかを問いかけられた気がしました。「汽笛」ではどこに向かおうとしているのか自分でも分からない苦しみ。フラフラと波間を漂っているような印象を受けました。「週末・・」は離婚して一人暮らしをしている男のあまりにも平和すぎて刺激がないが故の苦しみ。目には見えない砂に押しつぶされそうな気分になりました。★★★
2010/07/19
yazawa
主人公の下村満は小説家。然し、執筆するに当たりこれといった、手応えが感じられず文字すら書けない窮地に陥る。一方で故旧の春男にも絶交したくても口に出せない、腐れ縁のような関係に苛立ちを覚える。そんな春男が、三十過ぎになってから鬱病を患ったという知らせを聞きつけことを切欠に、不意に満は、窮地から脱却しようと春男に陰鬱な「実験」を実行する話と他二篇。 淡々と進行していくが、乾いた文体に描かれる、人間が追い込まれた時の心情を繊細に捉えている。暗雲が広がる不穏な雰囲気から、人間の心情を冷徹に見透かしている。
2015/07/10
梟をめぐる読書
表題作の「実験」は、うつ病と診断されて家に引き篭もる旧友をわざと追い詰め、その過程を観察して小説のネタにしようとする作家の話。…と書くと倫理的不快感を読者に催させるためだけに構築された作品のような印象をもたれてしまうかもしれないが、しかし本当に追い詰められていくのは作家のほうで、ラストは痛快でさえある佳作。作家と旧友の関係がまた『こころ』の先生とKのそれの再演(先生もまた、Kを「向上心のないやつは馬鹿だ」と炊き付ける)といった趣きで、やはりモチーフは現代的でも、文学の伝統と繋がっているのだなと思った。
2012/01/24
雪空
「実験」ひきこもり男性の思考回路は、他の追随を許さないのでは…。家族の嫌な雰囲気も本当に…。「汽笛」次の話のあとに読んだら味い深かった。泳げない…のかい。「週末の葬儀」砂の感じがありありと。死に引き寄せられている心情が、冷静に丁寧に綴られる。文章の中に唐突に視界がぐにゃりと歪むような瞬間がある。この辺の表現は抜群に好き。……なんだけど、どれも結末が不完全燃焼な気が。どん底にならず、すこーし救いがあるように感じるのもそのせいか。
2017/03/19
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