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夏の闇

夏の闇

夏の闇

作家
開高健
出版社
新潮社
発売日
1972-03-01
ISBN
9784103049012
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夏の闇 / 感想・レビュー

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Sakie

女の視点で見てしまう。男は放っておけば寝床から出もせず惰眠を貪り続ける、美食と性欲ばかりの中年。しかし覚醒しているときの会話は理知的で、食の薀蓄が縦横無尽で、楽しい相手だ。男を手放せない女の雄弁が痛くてひりひりする。一方、男は酒でも紛らわせない倦怠のどん底。戦地ベトナムへ行きたいと、ある日生き生きと情報収集を始める。死なないようまじないの言葉を彫ったライターを手放さないでいながら、死地を望むロマンチシズム。そりゃ女は絶望的についていけんわな。どうしようもない人やなぁ。言葉にも貪欲でこってりで、息が詰まる。

2019/09/01

kochi

旧知の旅の男を訪ね、安宿に一緒に暮らし始める女。東西の冷戦の焦点である街に移り、男の心身が崩れることで保たれる危ういバランス。しかし遠いアジアの国の戦争を契機として、男は過去のなにものかに取り憑かれるように動き出す。二人の背景などもわからないまま、濃密な生活が始まり、女の街へと移動し、官能的で怠惰な生活が形作られ、瞬く間に崩れていく様。言葉の羅列、語句の片片までが官能的で猥雑で、とどめなく流れるのだが、流れと共に沈んでしまいそうになり、やがて言語そのものが官能となる。これはエライ本を読んでしまった。

2021/12/26

左脳

美酒美食。眠り。色欲。手の届く範囲にある刺激を、空っぽの心に詰め込むようにして、今日をやり過ごす男。怠惰で受動的な自殺志願者にも見える。そんな時、同胞でも敵でもない無数の人びとの死の記憶が、鮮明に立ち上ってくる・・・湖でパイクと格闘するときだけ活き活きしていたのは、単なる釣り好きの憂さ晴らしというよりは、このように自分を釣り上げる何者かを、我知らずに期待していたからだろう。「あちら」と「こちら」の境目が混濁していくなか、ふわふわの平和から逃げるように男は毛鉤に食いついた。

2011/10/17

なにしな

読書メーターの皆の感想を読んだ。 「女を捨てて戦に向かう男」に引っかかり、こんなのはクズ男だ。私は女性だ、だからこの女に自己投影した結果最悪の作家だ。これにはノれなかった。湖畔のネズミちゃんはどこに行くのか。 本書発売前後の朝日新聞の書評を読んだ。 (やはり)ベ平連作家として素晴らしい。これぞ「男の美学」だ。これにもノれなかった。著者がそのような思想を持っていてそれを小説にのっけた部分を省いても、この小説の評価すべきところはまだたくさんある。[続く]

2020/11/29

元吉

★★★★☆ 登場するのは「私」と「女」だけである。気の利いた名前は一切ない。 あるひと夏に女の元に転がり込んで、ただ怠惰に暮らしたというストーリのない物語だ。 男は生産的なことを一切やっていない。湖での魚釣りぐらいか...あとは、昼寝して飯を食って、そして女を抱くぐらい。女もアパートの中では全裸で暮らすが、かと言って全編を通じて官能的ではなく即物的だ。 著者の訴えはう? ヴェトナム戦争の従軍記者としてPSTD? 異国で孤独と戦い性を貪るインテリ女? きっと両者がクロスしたポイントなんだろう。

2006/09/24

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