女たち三百人の裏切りの書
女たち三百人の裏切りの書 / 感想・レビュー
marco
源氏物語54帖のうち最後の10帖である「宇治十帖」は、光源氏没後の出来事を描く続編的な位置づけの物語で、紫式部の作ではないとする説がある。本書『女たち三百人の裏切りの書』では、死後100年たった平安時代に紫式部が怨霊となって甦り、世間に流布している「宇治十帖」を偽物と断じ、自ら語り直す。これだけでも大胆な試みだが、このコアストーリーに、さらに古川日出男は、海賊、武士、そして、蝦夷の物語を織り込み、壮大な絵巻を作り上げる。自分にとってこの10年でもっとも難しく、もっとも挑発的で刺激的な読書だった。
2015/08/23
アルピニア
独特な文体がしっくり来なくて、苦戦しながらも藤式部(紫式部)の霊によって語られる「本当の宇治十帖」知りたさに読み進めた。登場人物の心の深淵を新たな視点で描く物語を期待していたのだが、逆に藤氏、平氏、蝦夷、源氏、海神をも巻き込んで壮大に拡がる物語だった。途中までなかなか先が見えず、終盤は怒濤に巻き込まれるように終わってしまった。私の期待も見事に裏切られてしまったが(笑)、中将の君(浮舟の母)に対する八の宮の裏切り、その恨みの浮舟への伝播、中の君や薫に対する大君の裏切りという捉え方は心に残った。
2019/07/10
さっとる◎
物語はどれほどの力を持っているのか。時は紫式部没後百年余、平安末期の現代。院政が敷かれ海には海賊が跋扈し陸では刀が勢いを増し始める頃。千年ほど昔だった今。後世の人よあなたたち後世の人々よ。時を経て尚語りが始まるこの言葉は妖しい魅力を放つ。ほら、芥子の匂いがしてきた。語られる物語は知っているはずなのに知らない展開を見せる。あちら側のことだと油断してはいないか。物語の側から退場した人物は、ないものとはならないのだ。こちら側の神が刀が、物語だと思っていた側にも見えるだろう?夥しい数の裏切りが騙りが物語が現実だ。
2018/05/10
marco
読売文学賞獲っちゃいました! 我がことのようにうれしい!
2016/02/01
ぐうぐう
紫式部が亡くなって百有余年、憑坐の少女に宿った怨霊は、自身が紫式部であると名乗る。そして、光源氏亡きあとの物語『宇治十帖』は贋作だと告げ、本物の『源氏物語』を語り始めるという、驚愕の展開となる。古川日出男はこの発想が、2011年の震災がきっかけだったと言う。福島出身の古川が、千年に一度の地震を前に、千年という時間を想像しようとしたとき、千年前には紫式部がいたことに気付く。『源氏物語』を語り直す中で古川は、『源氏物語』が内包する力を改めて伝え、それはやがて、すべての物語そのものの力と重なっていく。(つづく)
2016/04/25
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