草祭
草祭 / 感想・レビュー
おしゃべりメガネ
きっと恒川さんなら、こういう作品なら簡単に書いてしまうんだろうなぁと普通じゃないレベルの作品に対し、普通に思えてしまいます。サラッとした短編集ですが、文章の美しさは小説の域をはるかに超えており、どんなにささくれ立ったココロも落ち着かせてくれるほどの癒し&安定感があり、所々にちょっとしたホラーテイストが見え隠れしますが、それこそが作者さんの真骨頂だろうと思います。どの作品にもほのかな‘愛’を感じ、すべてにおいてキレイにまとめる筆力は圧巻です。読んでいて‘疲れ’を感じないごく稀な作家さん、それが恒川さんです。
2015/01/21
遥かなる想い
「美奥」というどこか懐かしい街を舞台に不思議で残酷な物語が語られる。その中には、けものに変化する少年や、守り神になる少女や、 不可思議なゲームにのめりこむ少女が描かれているが..5つの短編はみな、どこかで「美奥」に繋がっていく。昔、日本のどこかにあったような懐かしい街。ほの暗い水路が流れ、丘の上には洋館が立ち、猥雑な界隈は旅人が彷徨う迷路のような建物がひしめく。異界へと続く裂け目が、ふっと人を飲み込んでしまう不思議の街。「夜市」以来、喪失の文学である。
2011/07/02
とろこ
美奥という土地に纏わる短編集。ホラーというよりも幻想小説に近い。個人的には耽美的だとも思う。そして、現実的にはあり得ない話ばかりなのに、なぜか懐かしさを覚える。それは、描かれているのが現代ではない、という理由だけではないだろう。自我が確立される以前の幼少期には、もしかしたら、私も、こんな世界に迷い込んだことがあるのかもしれない。そして、成長して忘れてしまっただけなのかもしれない。「天化の宿」の苦解きは、私もしてみたい。古来から万物を神としてきた日本人の感性に訴えかけてくる小説。原風景にも似ている。
2017/04/23
takaC
美しい山奥、人呼んで美奥。何とも言えない不思議な場所なんだな。行ってみたい気もするが、「怖い」が本音。
2010/11/26
エンブレムT
怒りと哀しみをも飲み込んで、ただそこにある『美奥』の町。現在と過去を交錯させつつ紡がれてゆく、死と再生の物語。不思議や不条理に対しての「なぜ、どうして?」という疑問に答えが一切ない物語には、なんともいえない不安感が纏わり付いてくるのですが、この作品にはそれがありませんでした。けものはら、屋根猩猩、クサナギ、天化、碧いガラス珠に広がる世界、そして現実世界。「何か一つの要因をずらしたり、入れ替えたりしたら、ふっと消えてしまうものはたくさんある」描かれていたのは、幻想の世界でも現実の世界でも変わらない真理。
2011/08/19
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