終の住処
終の住処 / 感想・レビュー
遥かなる想い
第141回(平成21年度上半期) 芥川賞受賞。 この小説が醸し出す 奇妙な雰囲気に浸っていた。 結婚した夫婦の冷ややかな 生活を、男性視点で描く。 夫婦生活に、ひどく夢を抱かない、 突き放した観点が逆に物語に 奇妙なテンポを与えている。 所詮、他人である二人が 一緒に暮らし、人生を歩むと いう不可解さを、感情のない 文体で描写を続ける。 なぜ妻は11年間もの間、口を きかなかったのか。 ミステリー的な要素も加味した 構成をとる不可思議な物語だった。
2013/12/28
ヴェネツィア
2009年上半期芥川賞受賞作。小説は終始「彼」(固有名は与えられていない)の視点を通して描かれる。ただし、その「彼」を措定する小説の語り手が背後にいるのだが。物語前半の妻との生活や主人公の度々の不倫と、後半の家を建てててからとの間には断絶があるように思う。また「彼」と彼女たちとの関係も奇妙なくらいに希薄だ。もっとも、レールに乗って進んでいくような彼のサラリーマン生活は、これを一本の線で結んではいるのだが。小説はいかにしても逃れ難い彼と妻の孤独を描くが、それは生の意味を本質的に喪失した姿であるかにも見える。
2013/07/30
absinthe
固有名詞がほとんどなく、主人公の彼と妻と娘。母や上司にも名前が無い。人間関係はどこまでも薄く見えてしまい、偶有の話でなく普遍の話を書きたかったのかとも思わせる。いつまでに子供を作り、いつまでにお金をため、最後はここに住むという幸せを、お上から与えられた決まりごとのように受け入れている。逸脱しようと足掻いたのか、しかし不倫にも情熱を持っているようにまでは見えない。自分にはあわないなぁ。少し前に読んだ『この人の閾』に狙いが似ている気がする。
2021/06/01
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
☆6.0(5点満点なのですが) この著作は新型爆弾か。凄まじい衝撃波だ。 これを読むと時間という概念は崩壊してしまう。 我々は大きな勘違いをしているのだ。実は「時間」は流れていないのだ。「時間」はひとつであり、過去も現在も未来もそんなものなどない。ただ一点が存在するだけなのだ。 だから現在のあとに過去が現れる場合もあれば現在の前に未来が現れることもあるのだ。
2021/01/24
kishikan
Amazonを眺めていたら、芥川賞作品というのが目に入り、タイトルにも魅せられ古本を購入。第141回なので数年前のものだけど、磯崎さんが受賞したことも知らず、芥川賞とは随分縁が遠くなってしまったようだ。さてこの終の住処、大人になると得てして誰もが陥る人生の意義への疑問を、結婚生活、仕事、子育てなどを通し、中年男性の惰性的人生観というメタファーで表現したもの。って僕は理解したんだけど・・・。ここらは純文学の難しさもあるけど、最後は妻との居場所を見つけたってことでの結着。でも残念だけど、会話文はいまいち。
2013/02/07
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