増大派に告ぐ
増大派に告ぐ / 感想・レビュー
けい
「本にだって・・・」の作者デビュー作。壮大なスケールで描かれる複雑な父子関係、一方は血の繋がりはあるが家族として暮せない者、もう一方は血の繋がりはないが家族として暮す者。それぞれの立場における狂気が、団地という閉鎖的な空間を舞台に虚実交え、時間経過も交えながら描かれます。さらに関西弁を駆使する中学生からは強烈なノリツッコミが繰り出され話の内容が煙に巻かれていきます。筆者の力量に引き込まれ、結果面白かった?な感じですが、新作出ると絶対読んでしまう作家さんの一人になるでしょう。
2013/08/04
kishikan
「本にだって・・・」が結構好みだったので、第21回日本ファンタジーノベル大賞の本作を手にしたのですが。そうですね、我々が思うファンタジーとは違うような気も。怪奇小説(ちょっと言い過ぎかな)というか、奇怪あるいは精神的に重過ぎるほどのある意味アバンギャルドな小説でしたね。かといって私は別に嫌いじゃないですけど。壊れた家庭(父子関係)の14歳の少年と精神を病むホームレスの二人の視点から見た互いの社会と生活。団地、虐待、社会主義、増大派?様々な世の裏を織り込んだ狂気の世界。文体が難解だけど尾を引く面白さがある。
2013/07/22
アマニョッキ
読了後、見知らぬ化け物に飲み込まれたように時間だけが過ぎていく。感想を書こうと思って小一時間、ただずっとこの作品の凄さを何も語れない自分に愕然としている。私に言えることは西川真以子さんの装画はいつだって最高だってことと、なまくらな覚悟ではこの作品読もうと思ってはいけませんよってこと。心臓ぐんっ!て掴んで揺すぶられますし、読みはじめたら脳みそも引っ掴まれますんで、体調とお時間万全にしてお臨みください。にしても大傑作ってときに人に知られずに埋もれているものなんですね。ほんまこの方天才やと思いますよ。
2022/03/16
ぷく
舗装していない道をずるずると引きずられるような感覚につきまとわれる。 誰かが垂れ流した悪意は、誰かが背負わされ、恩着せがましい世界は尚も肥大化する。私はいよいよ皮膚も削られるけど、私の芯は逆に冴えわたる。 「私は罰を受けているのですか?受けているとしたら、どんな罪を犯したのですか?」あと1mmで骨が見えるというところで、舜也の笑い声が聞こえ、私はようやく自分の足で立つ。道の先に誰かいる。暗くて顔が見えない。あなたは増大派?減少派?聞いても答えてくれるはずもない。私は、見えない聞こえないことに安堵する。
2022/01/15
ヨコツ
これがどうしてファンタジーノベル大賞なんだかさっぱり分からない。ファンタジーってのは百歩譲っても電波系ホームレスと鬱屈中学生が主人公で、かつ不思議要素0の小説を指す言葉ではない筈だ。物語はこのファンタジックというよりはエキセントリックなホームレスとひねこびた中学生の恵まれない人生の対比を中心に進んでゆく。大きな流れがある様でいてそうでもなかったり、色々と肩すかしやヤキモキ感の多い造りにはなっているのだが、それが逆に不穏なまでのリアリティを醸し出している。終盤のカタストロフへ向けての疾走感はとても良かった。
2013/12/26
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