ウィステリアと三人の女たち
ウィステリアと三人の女たち / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『わたくし率イン歯ー、または世界』では、きわめて個的な妄想爆裂文体で自由奔放に語り、『乳と卵』では大阪弁を駆使し、一葉、あるいは西鶴ばりの饒舌体で語っていた。それぞれに「個」と「ローカル」なパワーがあったのだが、何時の頃からか川上未映子の文体からそうしたものが消えて行った。代わって獲得したのが、より普遍化された文体とテーマである。それは今や日本文学の枠組みさえも破っていきそうだ。本書は、そうした成果に立脚して、というよりもはや遥かな文学の高みに辿り着いたかのようだ。現代日本文学の一つの極点である。強推薦!
2022/04/24
starbro
川上未映子は、ご主人阿部和重共々、新作中心に読んでいる作家です。本書は、芥川賞受賞作家らしい短編集、オススメは『彼女と彼女の記憶について』です。『彼女と彼女の記憶について』のみ【読メエロ部】
2018/04/20
風眠
言わない本音、見せられない一面、そういう本性、あなたにもあるよね?って、向けられる薄い笑み。まるで私を見透かされているようで、ひやりとする。誰にだって、人には言えない事のひとつくらい、ある。認めたくない、でも、私にも確かにある嫌な本性。この短篇集の主人公は皆、女だ。子どもの頃の淫靡な秘密と記憶。上品な微笑みの裏にある凶暴さ。傷つき病んだ女たちの施設で、愛の存在について語り合う寂しさ。「愛した女性の子どもを産みたい」という、どうしたって叶わない切ない願い。ありふれた日常の中、心の本質が立ち現れる瞬間の物語。
2018/05/04
hiro
「シャンデリア」だけは、Kindle Singleで既読。今回は性的な描写があるにもかかわらず、男性がほとんど登場しない、4編すべてが女性と女性の物語の短編集。芥川賞受賞作の『乳と卵』も母と娘の物語なので驚くことはないが、この作品を読み始めてすぐに、当然ながら前作の『あこがれ』とは全く雰囲気が違うことに気づく。そして村上春樹ファンの川上さんらしく?村上作品に似た雰囲気を強く感じながら読んだ。今回『あこがれ』から2年半ぶりの小説の刊行だったが、エッセイだけでなく、もっと川上さんの小説を読みたいと強く思った。
2018/05/30
ちゃちゃ
藤(ウィステリア)の古木のある家が、目の前で解体され瓦礫になる。物だけでなく、人も人によって壊される。時には暴力的に理不尽に。粉々になった瓦礫から自分自身から、聴こえてくる「壊される音」。注意深くその音に耳を澄ませ、壊された自己と向き合う。闇の質が変わり、そこに微かな変化が生まれる。死という暗闇と自己との輪郭が溶け合うような、自分という存在の不確かさや危うさを描いた四編。最後に配された表題作で、作者は崩壊の危機に差す微かな光を描く。女の心の闇を見据える揺るぎない視線は、やはり川上未映子ならではの鋭さだ。
2018/05/31
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