天路の旅人
天路の旅人 / 感想・レビュー
starbro
沢木 耕太郎は、永年に渡って新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者が四半世紀かけて書いた、著者ならではの渾身のノンフィクション巨編、本書で西川 一三という存在を初めて知りました。 西川 一三は、70年以上も前に「密偵」として潜入し、アジア全域を旅したコスモポリタン的存在です。著者と共通点があるのも驚きでした。本書は、今年のBEST20候補となりました。 https://www.shinchosha.co.jp/book/327523/
2022/12/06
パトラッシュ
河口慧海の『チベット旅行記』と比べてしまうが、少なくとも慧海は仏教の原典を求める目的のある旅だった。しかし西川一三は軍の密偵として大陸奥地へ潜入しながら途中で日本が敗戦し、旅の意味が失われ金や支援をなくしても帰国を選ばず、厳しい自然と盗賊が跋扈するチベットやインドを歩き続けた。途中で見つかり送還されなければ、もっと続けていたはずだ。ひたすら旅することだけを目的にした点で『深夜特急』の先駆者であり、著者が惹かれたのも当然か。管理された現代では、こんな旅をする人も行く機会も失われたのだと痛切に感じさせられる。
2023/01/12
のっち♬
密偵として中国へ送られ、戦後もラマ僧に扮して西域を旅した西川一三。対談を重ね著書の原稿を入手した沢木は人物像をフォーカスし、情報補足や木村肥佐生と対比させたりして別物のルポに仕上げた。未知の場所へ行きたいという強い冒険心、托鉢と野宿と徒歩の行程、最下層生活の自由…無欲・無一文こそが最大の財産な旅の純度の高さは同じ26歳で旅した沢木を惹きつけた。最後の時間を跨いだシンクロに没入度が伺える。匪賊もいる中で日本列島の長さを平然と歩くスケールの解説も明晰。アクシデントや物事にフラットに対処できる心こそが旅の真髄。
2023/05/10
まーくん
第二次大戦末期、当時、日本の勢力圏であった中国・内モンゴルから巡礼の蒙古人ラマ僧になりすまし、「密偵」として中華民国政府が支配する寧夏省を突破し、青蔵高原を抜け中国大陸奥深くまで潜入。大戦終結後もラマ僧に成りすましたままチベットからインド亜大陸まで足を延ばし、1950年にインドで逮捕・送還されるまで足かけ8年に及ぶ長い間、現地の言葉数か国語をマスターしつつ、修行・巡礼の旅を続けた西川一三という方がいた。四半世紀前、帰国後の日々をも含めたその人生に興味を覚えた作家沢木耕太郎が西川が住む盛岡へ、長期間通い⇒
2022/11/05
R
かつて日本軍のスパイとして、中国奥地からチベット、インドまで潜伏していた人物へのインタビュー記録をまとめたものなんだが、この冒険譚が物凄い面白い。そもそもスパイとはと考えさせられたり、こういう人がたくさん居たのかもとか、ロマンと呼べるような歴史に埋もれた人たちの行動、その冒険が記されている。特定人物の歴史としても読めて、潜入のためラマ僧になるくだりが、もはや完全にラマ僧であったり、気づけば徳を積んで人から頼られていたりといったことが興味深く面白かった。いい本読んだ。
2023/06/12
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