乙女の密告
乙女の密告 / 感想・レビュー
遥かなる想い
第143回(平成22年度上半期) 芥川賞受賞 外国語大学で学ぶ「乙女」の 幻想的な内面を描く。 バッハマン教授、麗子様等 登場人物が不思議な味わいを 醸し出しており、小気味良い。 乙女たちのバイブルとも 言うべき『アンネフランク』を めぐるくだりは風刺が効いて 何故か可笑しい。 口が達者な生き物で、アンネを こよなく愛する「乙女たち」の 不可思議な世界がこの本には 確かにある。そして乙女が 囁く不条理な噂、そして密告 .....軽い記述が逆に不気味な乙女の世界を 助長させている、そんな気がする 本だった。
2013/10/12
zero1
笑える芥川賞受賞作を、何度目かの再読。京都外語大でドイツ語を学ぶ乙女たちを描く。変人バッハマン教授の乱入とスポ根の世界。年齢不詳でストップウォッチを離さない麗子様。「おぇー」の発音練習は笑える。デフォルメされたエピソードだけではなく、京都の家の暗さと冷蔵庫を開けた際の明るさの対比など文学的に高さを見せる。乙女たちが読むのは「アンネの日記」の原書。密告の今昔と「言葉とは何か」という問いも含まれている。短くすぐ読めるが、奥が深い作品。赤染は17年9月に42歳で肺炎のため亡くなっている。若すぎる彼女の死を悼む。
2019/06/29
優希
乙女とは何か。この本を読むと、その響きとは違った姿が見えてきます。京都の外国語大学ドイツ語学科の乙女たちがアンネ・フランクと共に大学生活を歩んでいく。おそらく「乙女」とはアンネ・フランクに染まるためのキーワードなのかもしれません。だからこそ最後に密告される。独特の世界観を感じさせる作品でした。
2017/03/03
ちゃちゃ
真実と向き合うことの大切さを瑞々しく描いた作品だ。みか子は京都外大で独語を学ぶ“乙女”。『アンネの日記』の暗唱コンテストを機に、戦後はオランダ人になりたいと願うアンネの切実な言葉と出会う。ユダヤ人であるというアイデンティティーの危機。けれどみか子は気づく、アンネがアンネ・フランクという名を持つ存在であるように、私は私でありたいと。何の根拠もなく集団にとって異質な存在(他者)を作り出す社会。そこに隠れた真実から目をそらしてはいけないと。荒削りな部分もあるが、自己や社会と真摯に対峙する姿勢に好感がもてた。
2023/06/30
buchipanda3
岸本佐知子さんと万城目学さんのつぶやきで著者のことを知ったのだが、読んでみてどこかお二人の作品の雰囲気を感じた気がする。最初はユーモラスだが、徐々に心に浸食してくる何かがあり、終盤は息が詰まる感覚に。語り手のみか子は「アンネの日記」のドイツ語版を暗唱する際、どうしても忘れてしまう一文があった。それはアンネが本心では言いたくない文章だったからでは。自分以外の他者になることの辛さ。だが世間(乙女という比喩で表現)は当人に真実より理想像を求める。それは実際の姿ではないのに。でもみか子は語った、本当の姿と言葉を。
2022/11/25
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