TIMELESS
TIMELESS / 感想・レビュー
こーた
小説を読んでいて、ぶわっと記憶があふれ出してきてどうにもならなくなることがある。何の脈絡もなく、いや、自分のなかで関連づけることはできても、それらをうまくことばにすることはできずに気づけば叫び出していたりする。目眩くイメージはぼくの記憶を先回りするかのように時間も空間も縦横無尽に展開して、その連鎖はアニメーションのように周囲を包みこむ。匂い、色、音、質感。あらゆる方向から襲われ、仮想現実か何かの創り出す世界に放り込まれたような錯覚に陥る。読むというより体験する。小説でこんなことが可能なのかと恐れ入る。⇒
2021/05/04
jam
繰返し見る夢なのか遠い記憶なのか、歳月が経つほど朧になるもの。その曖昧な境界の重なりのなかで鮮やかになる私。作品を読み進めながら、プールの水底から見た滲んだ青や、満開の桜の丘をさざめきながら通った遠い日の断片が浮き沈みした。ただし、それらは置き換えられたり上書きされた記憶であることも自覚している。しかし、それがなんであれ、その不確かなものに支えられ、私は此処に立つ。親子や夫婦という絆の幻想よりも、歳月を経て輪郭を帯びるもの。それは、混沌のなかから生まれ、やがて地球という星になった原始の記憶にも似ている。
2020/05/12
藤月はな(灯れ松明の火)
きっかけは、いつも魅力的な感想を書かれる読友さんが結構、辛口な感想を書かれているのが意外に思い、この本を借りる事になりました。因みに初、朝吹真理子です。恋愛感情・利害関係すらも抜きで結婚したうみとアミ。真に変なのかもしれないが、この二人や家族への常に薄布越しに姿を隠しているような薄い会話に既視感を覚えて仕方なかった。それは家族と会話する時に感じる疎外感とそれでも誰も大きくは傷つかない安心感に似ているから。そして死者の筈なのにうみの回想によってどんどん、うみの中での存在感を示すゆりちゃんは正に残り香のよう。
2018/10/06
kana
著者の満を持しての芥川賞受賞第一作。現在過去未来も夢もうつつも血縁も種の違いも曖昧になってみんな繋がっていくような、美しく繊細な言葉の連なりに魅せられて、陶然とする。素晴らしい読書体験で、年初にしてこれはもう年間ベスト級です。うみとアミ。なりゆきで愛なき結婚をしたはずなのに、普通なら不幸な展開のはずなのに、流れる時間は温かく、でも切なくもあって。そしてアオとこよみへと時は流れ、桜に惑い、行きつ戻りつ。こういう関係を築くのも良いなと、「たいせつになったなりゆき」のくだりを読んで噛みしめるように思うのです。
2019/01/13
かりさ
淡々と言葉は紡がれる。儚げにうつろう時間の中をまるでふわふわと海月のように漂う感覚。美しく透きとおる世界は、その下に幾重にも重なった乳白色の澱が掬われずにいるからだろうか…静謐な筆致からたちのぼる朝吹さんの言葉たちがあまりに美しく、時間をかけてずっと漂っていました。うみとアミの関係性、何気なく紡がれる日常の尊さ、そこに落とされるゆりちゃんの幻想。過去と現実、未来と幻想のあわいに揺れる静かな思いはひとつまたひとつと重なる澱に降り積もる。
2018/08/30
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