四龍海城
四龍海城 / 感想・レビュー
文庫フリーク@灯れ松明の火
「あの人は――誰だろう」自分にとって、世界で一番大切な宝物が奏でるトランペット。出城の対価を支払った健太郎には、胸の痛みしか呼び起こさない。四龍海城の天辺。漆黒に暁が注がれ、空は深い藍に、その藍に群青が入り交じり、さらに濃密で揺るぎない青に。密やかに色付いていく輝きの中、響くトランペット。健太郎も関もいない城の天辺で、この先貴希はどんな想いを奏で続けるのだろう。貴希の真摯な明晰さが切ない。全く違う物語だが米澤穂信さん『インシテミル』のような消化不良感も残る。異世界・四龍海城自体は謎のまま。→続く
2012/06/07
財布にジャック
少年達の友情を描いたファンタジーで、舞台が長崎の軍艦島を思わせる架空の島で、乾さんの考えられた想像の世界にどっぷりと浸らせていただきました。ネタバレをしないで感想を書くのが、ここまで難しいお話も珍しいかもしれません。こういう結末であろうことは後半に入った辺りで予測がついてしまうのにも係わらず、胸をかき乱される小説でした。乾さんに心を弄ばれた気分です。傑作。
2012/03/06
kishikan
青春時代に大事にしていたもの、失いたくなかったものって何だったろうなぁ。この本を読み終えて、僕が真っ先に思ったのはこのことだった。海の中に立つ不思議な塔、その異世界の城に迷い込んだ(拉致された)健太郎が、そこで同じ年頃の貴季に出会う。二人は様々な困難に立ち向かい、やがて真の友と思えるようになるのだが・・・。エピローグはないが、主人公の健太郎にとってこのひと夏の経験がその後の生活にどのように影響したのか、それが気になった。また今の若者がこの本を読んで、どのような感想を持つのだろう。僕はそれが知りたい。
2012/06/07
そのぼん
少年が存在するはずのない世界で突然暮らすことになる、とても変わった設定の作品でした。そこで主人公の少年は前からその世界にいた少年と心を通わせていくのですが・・・。最後まで読んで、切なくなりました。
2012/12/29
ちはや@灯れ松明の火
黄昏の海辺は神隠しの道、行きはよいよい、帰りは怖い。誰か友達になってほしいと、ひとりで生きていきたいと、それぞれ願っていた少年ふたり。海に聳える牢獄の虜囚、行き着く先は緩慢な魂の死、逃れるための代償を探し彷徨う。強がって、笑って、名前を呼びあって、支えあって。精神を蝕んでいく歌声から、忍び寄る城人化の恐怖から、この手で守り抜くと決めた。闇に塗られた夜空を青の階層へ色づかせる一条の光、夕日に溶けていくトランペットの音色、目に映して、耳に残して。ただ強く強く、思った。他の誰でもないと、ひとりきりじゃないと。
2011/11/13
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