蠅の帝国: 軍医たちの黙示録
蠅の帝国: 軍医たちの黙示録 / 感想・レビュー
NAO
第二次世界大戦末期、15人の軍医や軍医依託学生たちが見た戦争。軍医は将校だが、戦病傷兵や住民の治療にあたるのが任務で戦闘には参加しないため、他の将校には見えてこないものが見える。沖縄に配属された軍医の話「土龍」は、心に響く話だった。満州での話はそれほど厳しいものではないが、シベリアに送られてからのことは書かれてはいない。一番気になったのは、将校たちの部下いじめ。こんなことをしているようでは勝てるわけなどなかったのだ、と思った。
2019/12/24
ゆみねこ
昔、どなたかの「戦争とは不潔そのものである」という文章を読んだ記憶がありますが、ここに綴られた15編の軍医の語ることは、まさにその通り。15編の中には正直ここに載せなくても良いのでは?と思った物も数編ありましたが、原爆投下後の広島のことや、特攻隊員を送りだす立場の方のこと、東京大空襲で家族を亡くされた方の3編は強く印象に残りました。8月に読む事が出来て良かったです。
2014/08/22
藤枝梅安
貴重な1冊である。帚木先生が収集した軍医の手記をまとめた1冊。15人の手記がまとめられている。あとがきに「戦時中、ほとんどの医師が動員されていた。」とあり、その事実を知った時の衝撃と、多くの資料から軍医たちの苦闘や苦悩を感じ取った経緯が綴られている。帚木先生にとって、これら先輩医師たちの手記は、作家自身の医師としての人生を改めて振り返るきっかけとなったのだろう。15編をじっくり読み終えて、重い読後感が残った。続編の「蛍の航跡」も手許にあるが、続けて読むのはちょっとツライので、少し間を開けて読みたいと思う。
2012/02/03
KEI
膨大な資料から15名の軍医の手記として書かれているので、ノンフィクションの様な短編だった。医学校を卒業してもいないのに、軍医見習いとして戦場に駆り出す軍部。向かう先は内地であったり、満州奥地、南方とその行き先により生死も別れる。飢餓に喘ぎ、薬も武器もない中で九死に一生を得た証言は重かった。広島の原爆後の蠅の様子は初めて知り生々しかった。満州から引き揚げ船の中で亡くなった夫の伯母、南方で亡くなった母方の伯父たち、シベリヤに抑留された父の事が浮かび、辛い読書となった。
2018/03/12
クリママ
巻末の多くの参考資料を、わかりやすくまとめて書かれたものと思われる。15話。軍人になりたいわけではなく、早く昇格できたり、軍務を2年間で終えられる(実際はそうではないが)、軍医予備員として入隊する。そのため、戦争を真正面に見るというより、横からに見ているようで、戦争に対して、冷静で懐疑的だ。しかし、食物、医薬品がなく、満足に治療できない哀しみや、患者を戦地にを残しては行けないという強い意志がすべてに感じられる。兵士たちの終戦直後の苦難、日ソ不可侵条約を破棄して侵入するソ連兵など、知るべきことが多かった。
2017/09/28
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