おかしな男渥美清
おかしな男渥美清 / 感想・レビュー
くさてる
ついこの間、偶然に「男はつらいよ」の一作目を見る機会があって、本棚にあったこれを再読。わたしは小林信彦の視点が好きで、その対象になっている芸人さんにはそれほど興味がないことも多いのだが(渥美清もその一人)、映画を見た後だと、かれらが仲良く語り明かした一夜があった時代の空気が染みるように感じられて、とても良かった。なにより、一人の人物を描くためにその出演作品を丹念に見た、当たり前かもしれないけれど、実行するのは珍しいほどのその方法論が生きた本だと思う。
2019/03/13
makoto018
小林信彦の喜劇人論は信頼できる。自分が直接体験したことのメモ・日記や、鑑賞した作品論が元だから。編集者、放送作家、コラムニストという仕事と、偏執的なぐらいの記録魔体質がそれを支える。渥美清没後に出た本書も、寅さんではなく、上昇志向やアクの強さが描かれている。その一方で、天性のファニーな(おかしな)ところや、モダンな笑いのセンスなど、渥美清の本質が感じられる。若き2人が夜遅くまで熱っぽく語る様子は小林信彦の筆も軽やかで気分がいい。一方、終章の再会シーンはほろ苦い。ままならぬからこそ人生のひとときは愛おしい。
2024/05/09
maimai
渥美清という役者にはリアルタイムでは全く興味がなかった。最近になってひょんなことからえ「男はつらいよ」シリーズを製作順にDVDで観るようになって、「寅さん」がなぜ多くの日本人の心を掴んだのか、今さらながら少しわかってきた。「寅さん」とほぼイコールで結ばれるような渥美清像に馴染んできた読者であれば本書を読んで感じたような感慨を、多分僕は覚えることができなかったのだろうとは思うが、(たぶん)別の意味でとても興味深かった。つまり何が言いたいかというと、渥美清をよく知らない人でも面白いよ、と。
2018/08/13
hf
354p, ニューズウィークの日本文化研究家イアン・ブルマさんによると寅さんの世界は”ノーマン・ロックウェルの絵の世界にソフトになったジェームズ・キャグニーがいる眺めを日本に置き換えたものといえるかもしれない”と。そういえばイアン・ブルマは坪内祐三『アメリカ』でも村上春樹にインタビューした人物として登場したのであった。森繁久弥、伴淳三郎、藤山寛美、ハナ肇、フランキー堺、を私は知らないのでおのおのの評伝を読むとか、今後してみたらいいのだろうか?
2020/12/31
moon-shot
田所康雄を覆い隠すように作られる渥美清。更にその上に形作られる車寅次郎。その寅次郎も、時代の要請に応えてテキヤのやくざから優しい眼差しのおじさんに変貌していく。「キャラを演じる」ことは誰しもあるが、役者の業とは言え、ここまでやり遂げると壮絶な人生だと思いました。「渥美清」の才能が寅さんで消費され尽くしたことを惜しむ小林さんの気持ちも分かりますが、今、BS東京の「男はつらいよ」全話放送を見ていると、私は、寅さんに人生の後半生を捧げてくれた田所さんに感謝の気持ちで一杯です。
2019/08/18
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