とにかくうちに帰ります
とにかくうちに帰ります / 感想・レビュー
めろんラブ
うちに帰る。当たり前すぎて普段は考えることもないけれど。表題作「とにかくうちに帰ります」で描かれる切実な願望。何気ない日常を恋焦がれる状況に陥ったOLの心理描写が鮮やか。帰宅困難者という言葉を知る今となっては、この作品が本来持つ意味とは別の感慨が。同時収録の連作短編は、思いもよらない視点で切り取った職場風景を、可笑しみを交え淡々と。お得意の職場リアリズムは本作でも見事で、私の客観を許さない。いとも容易く作中の人に。他人の文房具を勝手に使い、しかも返さないおじさん社員(悪気なし)、どうかあの万年筆だけはw
2013/01/08
なゆ
さすが津村記久子、と唸れる面白さ。細かい人間観察の鋭さと、さりげない心のツッコミの的確さがすばらしい。マイナーな話題炸裂な「バリローチェの」が一番ツボ。負の力疑惑となぜかマイナーなスポーツ選手に詳しい浄之内さんという人物がとても気になる。「職場の作法」の目のつけどころも楽しい。「とにかくうちに」は豪雨で帰宅難民となる話だが、徒歩で向かうしかないバス停にたどり着くまでが、雨に打たれ冷えに耐えかなりサバイバル。最後はホッとしてちょっと心温まる話になっている。
2012/05/09
taiko
『職場の作法』はアンソロジーで既読、今回再読でしたが、やっぱり面白かった。ついぷっと吹き出してしまう。『バリローチェの…』は、もう常にクスクス笑いっぱなし。 浄之内さんの負の力の強さがすごい。今もまた、つい思い出し笑いが(笑) 表題作、ある意味の帰宅難民。でも、これまたシュール。読んでいると、自分までもが雨に濡れてしまっているような錯覚に襲われ、寒くて仕方ない気持ちになりました。こっちは冬ですから、暖房の温度を上げてしまいましたが。4人が、早く暖かいお風呂に入れるといいなと願いながら、本を閉じました。
2016/02/06
みっちゃん
女性会社員3人の「職場の作法」を巡る可笑しみと哀しみの入り交じった悲喜こもごもも良かったけれど、私はやっぱり表題作。『ウエストウィング』のあの嵐の夜と同じ日なのか?とんでもない豪雨で交通機関も道路も寸断された最中に何とかして家に帰ろうとする人達。「切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい」もう会う事もないかもしれない人達の間の一期一会の連帯感。こういう時にこそ、本当の人間性が露になるんだろうね。不器用な優しさを持つサラリーマンサカキが、どうか息子に会えてプレゼントを渡せていますように。
2022/04/07
R
会社世界というか、ごく普通の現代を描いた短編小説集でした。それなのに、とても滑稽で楽しい、OLの生態というか、ルールや義理のようなものまで見えたように思えて面白かった。特に、おっさんと壊滅的に没交渉化してしまう様が、ありありと描かれてしまうと、どこでボタンを掛け違えてしまったのだろうとうなだれつつも、同じおっさんとして笑えて仕方ないのであります、笑ってる場合か。
2017/12/28
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