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奇貨

奇貨

奇貨

作家
松浦理英子
出版社
新潮社
発売日
2012-08-31
ISBN
9784103327219
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奇貨 / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

タイトルは呂不韋の「奇貨居くべし」から。冴えない中年男である主人公の本田にとって、自分と暮らしてくれる10歳も若い七島は、まさに「奇貨」であった。そうは言っても2人の間に恋愛感情はないし、まして性的な関係もない。そもそも七島はレズビアンであり、本田もそれを重々承知の上だ。人にとって「奇貨」は、そして愛情や感情生活のあり方は、まさに個的なものだ。売れない私小説作家の本田が「奇貨」を失い、そしてその代償として得たのがこの小説だった。すると、これはまさに「書くこと」の意味をめぐる小説だったということになる。

2014/08/12

巨峰

松浦さんが54歳の時に発表された同姓愛者の女性と欲望の薄いはずの主人公の同居生活とその破綻を描いた「奇貨」、そして27歳の時に発表された10代の同性への憧れと愛・欲情・執着を描いた「変態月」の2編。27年の時を経ても響きあう二編。両作とも解る部分が多いし、余韻を持ちながら終わるが、特に「変態月」は20年以上もずっと単行本にならなかったのが不思議なほどの魅力に満ちた作品です。それが暗い情念を描いていたとしても。

2013/12/30

Y

いろんな欲望の形を描いた二作。二作ともとってもおもしろかった。世の中に存在する性癖はどれもある程度分類されていて、わかったような顔でそれらを自分のものも含めて眺めていたけど、実は他人に対する欲望って性別や性癖で簡単に分類できるものではなくて、人それぞれが固有の欲望を持っているんだなあと思った。「変態月」に出てくる、他人にとって特別でありたいと願うあまり、淡い好意が執着に変わる様を丹念に描写していて、同じような場面を経験したことがあるわけでもないのに、登場人物の感情に共鳴した。

2013/02/24

そうたそ

★★★★☆ 相変わらずの遅筆ぶり。次に新作が読めるのはいつになることやら。でも作品のクオリティが保証されているから、いつも正座して待ってしまう。本作のポイントは、女性との性愛を諦めた中年男が、ルームシェアしているレズビアンの同居人とその相手との会話を盗聴するという変態具合。何だろう、この関係と思いながら盗聴がバレてしまうところまで読んでいたのだが、「奇貨」とはまた言い得て妙。レズを描き続ける松浦さんだが、いつもとはまた違うベクトル。こういう性観念もあるんだな、と常々興味深く読んでいる。傑作です。

2013/06/12

ぐうぐう

おもしろい! そして当然のことながら、うまい! 松浦理英子の最新作は、周到に描かれた男女の友愛小説だ。しかし、その周到さは論理的ではあるが、理詰めにはならない。人物造形が逸品なので、まずはそこに惹かれ、物語に引きずり込まれるからだ。恨み、もしくは嫉妬という感情に貫かれた小説は、それぞれの人間の感情を醜く、だけれども、まっすぐに吐き出されることで、どこか清々しいエネルギーとして感じられていく。そこには、共感すらも存在している。そんな自分自身の奇貨に気付くとき、この小説の登場人物を愛さずにはいられなくなる。

2012/10/31

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