爪と目
爪と目 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2013年上半期、芥川賞受賞作。やや珍しい2人称体で語られる小説。しかも、その語り手は3歳の女の子と、これも異色の設定。ほとんど感情を交えずに、というよりはむしろ持つこともなく淡々と「あなた」の日常の行為を眺め続ける描写は、ロブ=グリエ等のヌーボー・ロマンの手法を思わせる。違っているのは、これが語られているのが現在時ではないことだ。「わたし」が語るのは、ある時点での回想だからだ。また、見られる存在である「あなた」は、そもそも「わたし」にとっては全く存在意義を持っておらず、すなわち目の中の異物に過ぎない。
2014/09/28
遥かなる想い
第149回(2013/上)芥川賞受賞作。 読みながら、どんよりと広がる不気味さに浸っていた・・ 著者の立ち位置が子供目線で大人を見上げながら、心の底では実は見下している。継母を「あなた」と表現し、無表情に冷徹に描写する文章には 実は律動感があり、印象的。同性を見る娘の視線が強烈で、 感情を抑えているのが、逆に奇妙な恐怖感を読者に 与える。眼球を軸に、継母の人生を描写し、非難も賛同もしない展開は 新鮮な気がするが・・全く感情を持たないようにみえる 「あなた」を視ている娘の不気味さが怖くもある。
2013/12/07
にいにい
初藤野可織さん。芥川賞受賞作を含む短編三作。「爪と目」:三歳の記憶と他の人物の思いを「わたし」と「あなた」の二人称で語る。初めは、読みにくいが慣れれば、サラッと読める。しかし、登場人物のエゴだけの話のようで、心に響かなかった。怖さは少々。 「しょう子さんが忘れていること」:不気味な内容。真実か妄想か?優しい変態の話と思った。 「ちびっこ広場」:母の子に対する中途半端な思いが生む怪談では?
2013/11/23
Kawai Hideki
何もかもお見通しな三歳児が、父親の不倫相手で再婚相手を「あなた」と呼びつけて、その行動、心理状態、生い立ちにいたるまで、どんどん暴き立てていくホラー小説。実の母親をベランダに締出して殺した疑いもあったり、ブログを通して継母がだんだん実母と同じ趣味に染まっていったりという描写はなかなか気味が悪くて面白かった。負の感情がドライにだんだん積み重なっていくのが丁寧に描かれていた割には、その感情が爆発してから終局にいたるまでが雑で唐突な感じなので、ちょっと残念。他2作も少しホラーの香る小説だったが、今ひとつな印象。
2015/06/23
風眠
三つ子の魂百まで、とは言うが、表題作の語り手の三歳の「わたし」の心には、なにが刻みつけられたのだろう。母親の死の謎、父親の愛人、見えていないはずの「大人の事情」までをも見透かしている冷静な目。言葉として整えられないだけで、子どもは意外と分かっている。その感性で、本能で、周りの大人を見ている。ラストの「あとはだいたい同じ」という語りが、研がれた爪で傷をつけるようにザクッと爪痕を残す。149回芥川賞受賞作。『しょう子さんが忘れていること』『ちびっこ広場』、絶妙な止め方のラストが印象的な短篇2篇収録。
2013/10/08
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