ビニール傘
ビニール傘 / 感想・レビュー
ナイスネイチャ
図書館本。「ビニール傘」「背中の月」の2編。どちらも大阪が舞台。明るい雰囲気はなく、ただ都会の貧しい生活を淡々と切り取っているようで人々の希薄な感じや愛情の感じられない生活がフワッと描かれてました。
2017/04/03
かみぶくろ
社会学者による短編2編で、いずれも大阪を舞台に、市井の人々の生活の断片を綴る。登場人物たちは誰もが代替可能な俺、私であり、どこにでもありそうな人間関係や街の景色や部屋の様相や悲しい記憶が声になってそこここにひっそりと響く。まさしく「断片」である俺私の並べられた無個性からは、それでもなぜか印象的な「生」が浮かび上がってくる。小雨の降る休日にしっとりと読みたい秀作だと思う。
2018/01/29
ちゃちゃ
繁華街の喧騒を離れると別の顔を見せる街、大阪。淀川の堤防に沿って、ぼろアパートや薄汚れたビルや工場が雑然と建ち並ぶ。多くの人が行き交う賑やかさは、実は行き場を失った孤独や淋しさを内包している。小さなビニール傘をさして歩く二人も、明日は別の道を行く他人であるかもしれない。けれど、その透明な幕にほんのひととき包み込まれてたい。そのあたたかさに…。社会の片隅で、寄る辺なく流れるように生きる人々のため息が、其処此処から聞こえてくるような作品。モノクロの写真も哀愁を漂わせて余韻を残す。『ビニール傘』のレビュー。
2022/07/16
nico🐬波待ち中
突然の雨に見舞われコンビニでビニール傘を買う。傘の見た目や機能性はどうでもいい。どうせその場しのぎの傘なんだから。他人との関わり方がそんなビニール傘に似ている。なんとなく誰かと話がしたい。相手は別に誰でもいい。でも自分の話をするのは億劫だから、相手の話を聞くだけがいい。大阪を舞台にした寂寥感たっぷりの物語。毎日を淡々と機械的に過ごす若者達がとてもリアル。途方もない切なさ、寂しさがひたひたと伝わってきて、何度も胸が締め付けられた。岸さんの描く男女の会話が相変わらずいい。読了後も寂しさ漂う余韻に暫し包まれる。
2021/04/25
chimako
重苦しい。独特の空気が流れる都会大阪。大阪王将の餃子とオシャレな生春巻が食卓に乗る。ビニール傘と上質なウールのコートが同じ家にある。垣根がないようにみえて、実はなかなか入り込む事は難しい出来上がった社会。部外者は一見陽気な場所に少しの憧れと、無理無理という諦めと拒否感を持つ。そんな場所で暮らす若者やカップル。人は生き、人は死ぬ。働いて、食べて飲んで、当たり前の毎日があるのにこの物語は重苦しい。写真が切り取る大阪はゴミゴミと雑多で時に整然と美しい。どこにでもいるだろう若者に寄り添いたいと思える。
2021/11/16
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