燃える塔
燃える塔 / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
戦時中特攻隊の中隊長だった父は部下を死なせて自分は出撃予定の3日前に終戦を迎え、生き残る。その負い目があってか、父は戦争にまつわる思い出を胸に封印して語らず、戦後二十余年が過ぎたある日、後に自殺ともとれる不可解な死に方で私の前から消えた。父が出撃していたら、私は生まれていない。封印された父の過去を探して、というより自身の生のありかを探して私は旅に出る。戦争の亡霊に囲まれ、官能の香り漂う。時空を超えた父探しの4つの物語。
2001/03/09
あ げ こ
明かされることのないまま、自らの内に残されたものたち。愛するものの足跡を辿り、一つずつ解いて行くためのこの旅が、自らを始点に導くと、止まらずに進む。生と死、今と過去を区切るもののない、曖昧な時間の中で出会う、いくつもの思い。向けられた憎しみ、抜け出せぬものの言葉が抉るように告げる、自らの生、そのものの危うさ。不可思議な邂逅に揺らめき、滞る心。だが、残されたものに触れるたび、身体をはしるそれは、生という営みの内よりもたらされる、甘やかな悦び。痛みにさえ、豊艶な潤いを捉え、歩みを止めぬ強さ。鮮やかで、眩しい。
2015/04/04
ヒラP@ehon.gohon
父親を探すいくつもの旅は、特攻隊の生き残りある来歴と、終戦直前に宿された自分の命の根源に迫っていく。当人しか知りえない事実が、デフォルメされると何と官能的になるのでしょうか。否定できない現実そのものがあるだけに、辛さのある奥深く謎めいた物語集です。
2015/01/10
あ げ こ
父の人生を辿る旅路に於いて、父が抱えていた罪の正体、自身の出自が隠し持つ意味を知る主人公。父の抱えた罪が、背徳感より生じる甘い悦びを与えるものであった事に対して、怒りと反発を覚える一方、同時に生じた共感と愛情を潔く認める彼女の心が好ましい。混在する死者と生者。過去の自分達によく似た人々。旅の途中に訪れる出会いはすべて、生を求める本能に従った父、死を免れる代わりに罪を背負った父の姿を、娘である彼女に伝える為のもの。旅の終わりに待つ静寂は、哀しい色合いをしているが、存外温かいものであるように思う。
2013/10/17
キムチ
著者の「父の物語」。父親のことを「私自身の発生現場」を確かめる作業にしておきたかったと記して綴っている。そのためか、性を絡めた表現に逐一、「とってつけたような技巧に溺れすぎたきらい」を感じ、何んとも違和感で終始する。
2012/04/17
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