名残の花
名残の花 / 感想・レビュー
初美マリン
明治維新で東京になったとしても、江戸がなくなるわけではない。そのまま引き続いている。江戸に置き去りに去れた人と表現された人々。かつての妖怪鳥居、能役者見習いを軸にさまざまな古きこと新しきことの迷いを表した短編集実に味わいのある作品だった
2021/01/15
修一朗
平安時代のお経梵唄のお話を読んだと思ったら今度は明治維新後の凋落著しい能楽のお話だ。澤田さんの古典芸能への造詣は幅広いね。鳥居胖庵御自身は南町奉行として江戸の享楽文化を抑圧した妖怪,御一新の混乱時には江戸払いを受けていて浦島太郎状態だ。この鳥居胖庵からの視点で御一新によって廃れようとする伝統芸能を守ろうするもの背を向けるものそれぞれの物語。今日でも我々が伝統芸能を鑑賞をできるのはまさにこの時代に守り切った人々がいたからこそなのだ。能楽の体系についても詳細でとてもよかった。
2019/10/30
buchipanda3
明治が開けて間もない頃、古い時代のものは用なしの如く扱われてしまう風情。そんな中で、かつて幕臣として天保の妖怪(耀甲斐)と謂われた鳥居耀蔵翁と能楽を志す若者・豊太郎の二人が、時代の変遷に戸惑いながらも芯の通った心持ちを見せるのがとても印象深い時代小説だった。どの話も謎掛けがあり興味を惹く。それを能楽の名演目の謡を絡めて、時の移ろいがもたらす人の機微を見事に歌い上げる物語に仕上げられていた。「清経の妻」が特に好み。矍鑠たる二人の爺さん、耀蔵と平蔵の無遠慮な気っぷのいいやり取りもこの上なく痛快無比だったなあ。
2019/12/13
のぶ
連作短編の形をとっているが、話は続いており、長編として読んでも特に違和感はない。主人公はかつて奉行だった鳥居胖庵。もう77歳の老人である。幕末に蘭学や歌舞音曲を弾圧して嫌われていた男。幽閉23年の末に彼が目にした江戸は東京と名を変え、明治の時代になっていた。武士のプライドをかざしても彼にはもう居場所がなかった。ある時、若い能役者と出会う。能楽もまた明治に没落の道を歩んでいた。そんな中で立場も年齢も違う二人が心を通わせるいくつものエピソードを描いた作品。時代に抗って生きる男の哀れが良く出た時代小説だった。
2019/10/19
真理そら
鳥居耀蔵が明治になってやっと東京になった江戸に帰ってきてからの物語。『妖怪(平岩弓枝)』と同様鳥居を悪人として描いていない点や、『妖怪』以後の鳥居の日常を描いている点が興味深い。急激な体制の変化によって滅びそうになっている能についての記述も興味深く読めた。金春流の若い能楽師の生活を支えていくのが難しい状況でも芸を高めていきたいという思い等々共感できる面も多かった。
2020/01/22
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