世はすべて美しい織物
世はすべて美しい織物 / 感想・レビュー
ちょろこ
染めて、織る。という手しごとを描いた昭和と現代を紡ぐ大河物語の一冊。時折涙が滲むほどの良作。桐生市の伝統工芸と共に家族という織物が織られていくストーリーは柔らかながらも、時に絡まった母娘の糸をほぐす難しさ厳しさを感じた。時代のうねりにもまれようとも、母の縛りにもまれようとも織り続けたいという二人の女性の強い気持ちがせつないほど交差し胸を打つ。何か一つのことに夢中になれるって素晴らしい。束縛の手を放し背を押すという手しごともいかに大切なことか。"誰もが織り人"この言葉が素敵。新たな息吹感じるラストも美しい。
2023/05/26
シナモン
桐生の養蚕農家に生まれ格式ある商家に嫁ぎ戦時下の困難な時代を生きた芳乃、25歳にして母親の強い管理下におかれ鬱屈した日々を送る詩織。昭和と現代、違う時代を生きる二人には織物に魅せられているという共通点があった。二人の人生の物語は織物のように交差しながら進んで…。詩織の出生の秘密に迫っていくところではドキドキ。自分のルーツを知るってやはり大きなことなんだな。様々な困難があっても創りたい!っていう熱い気持ちは誰にも止めることはできない。素敵な物語でした。
2022/12/19
のぶ
「山笑う」といういわくつきの織物をテーマにした作品だった。物語は昭和の戦中戦後と現代が交互に描かれている。昭和では養蚕家族の娘・芳乃が創作織物に打ち込み、桐生の豪商のもとへ嫁ぎ、その人生は大きく揺れ動いていく。一方の現代では詩織がトリマーとして働きながらも母の束縛に苦しんでいた。ある出来事から詩織は実家を抜け出し手しごと市が開催されるという桐生に向かった。この二つの話が紡がれていくうちに、最後ふたりの人生が折り重なるときに思いもよらぬ奇跡が・・。構成は面白いのだが人物にあまり魅力がなく今ひとつだった。
2022/12/02
やも
人と山と蚕神様。森羅万象。これ、とっても良かった。昭和を生きた芳乃と平成に生きる詩織。2人の視点が交互に描かれ、やがて交差。砂利道を歩いてきたかのような2人がこれから歩くのは、蚕神様が見守ってくれる路だ。人はどこかで誰かとつながってる。いつから紡いできてるのか分からない、一朝一夕では織り成せない、長い時間を使って作る1枚の布のように。何事も向き不向きがあるだけで、成功失敗ではないんだよな。どんな路でも一歩を踏み出した事が素晴らしいと思う。私も学校で蚕育てて、繭を茹でた事があるけど、貴重な経験だった。
2023/04/18
はる
昭和12年と平成30年。織物に魅せられた二人の女性の世代を超えた物語。舞台は私の育った桐生。そして私の実家も織物業でした。祖父の家では養蚕もしていましたから、とても親しみのある世界。興味深く読みました。特に昭和の時代、貧しい家から名家に嫁いだ主人公に起こる様々なドラマは読みごたえ十分。ラストに主人公の二人の想いが時間を超えて繋がっていく場面が素敵でした。故郷の方言や街並みが描写されるのは、嬉しいやら照れくさいやら。
2023/05/29
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