言葉のなかに風景が立ち上がる
言葉のなかに風景が立ち上がる / 感想・レビュー
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風景から文学を論じた本。といってもアカデミックな感じではなく、博覧である著者の風景を窓口にした読書案内といった感じ。ちなみにここでの「風景」は自然主義的なそれではなく多分に見る者の想念を投射したもの。心象風景というべきか。読んでみたいと思ったのは野呂邦暢『鳥たちの河口』、松本健一『エンジェル・ヘアー』、丸山健二、日野啓三など。多和田葉子『容疑者の夜行列車』は読み返したくなった。内容に啓かれるというよりは、なんでもないことを様々な切り口から語り直し一つの読物にしてしまう著者の手並に感心した。揶揄ではなく。
2016/12/25
なかすぎこう
様々な小説の人物と風景との関わり合いを描く。最初の方の小説は日本の街々の比較的平凡に見える人々の生き方と風景について書いており、それほど興味が持てなかったが、最後の方、多和田葉子氏の「容疑者の夜行列車」(「あなた」という人間が列車で各国を回る)、日野啓三「ユーラシアの風景 世界の記憶を辿る」、清岡卓行「太陽に酔う」の辺りは、詩人の直観の目が感じられ、刺激的だった。ぜひ読んでみたい。
2021/09/18
かほ
後藤明生に言及された本で課題に使おうとして借りたところ、その他の部分も大変興味深い。自分のよく読む作家の本も扱われていたが、風景と個との交感という視点から論じられているのが新鮮だった。風景の対象化が、個が自然から自立した近代以降であること、散歩という行為が都市社会になってから行われていること、路地や横丁のような風景に感じる詩情、など、自分の頭の中が書かれているみたいだった。あと最近何を読んでも永井荷風『濹東綺譚』と前田愛の都市理論がやたら言及されているので、こちらも必読だ。
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