海峡の光
海峡の光 / 感想・レビュー
抹茶モナカ
学生時代に主人公の斉藤をイジメた主犯の男・花井が、成長して刑務官をしている斉藤の勤務勤している函館少年刑務所に収監されて来る。イジメの心理、主従の心理が複雑に交錯する心理ドラマ。服役する花井の謎の行動は、常に斉藤を支配し続ける。時折、難しい単語が小石のようにポツンとある文章は、上手いのか、下手なのか、わからなかったけど、着地点が楽しみで読み進めてしまった。それだけ、イジメっ子の花井の造形に成功している、という事か。
2016/02/10
James Hayashi
青函連絡船の廃止の前に船員を辞め、刑務所の刑務官になった主人公。その彼の前に受刑者として現れたのは元同級生の花井ーイジメの張本人。この二人の関連性を主人公の立場から緻密に描写。陰のある冬の寒さを感じさせる文章ながら、非常に読みやすい。しかしストーリー的には、花井の本意が分かりづらいし、結末も把握しきれなかった。読み応え十分で、90年代半ばに芥川賞受賞に頷ける作品。辻氏の作品は4冊目だと思うが、これはイチオシ!
2014/09/06
紅蓮
私も花井の生き方を考えたことがある。それは実はなんと寂しいことか。 (p109)この小柄な若者はかつての私よりもずっと惨めだと、その時私は思っていた。またそう優越することで私は過去の自分を慰めることもできた。つまりは私達自身も、花井が整えたピラミッド型の秩序に知らぬ間に組み込まれ、精神の浄化を享受してきる一人であったのだ。花井が花井らしさを開花させていくのを1番喜んでいたのはこの私ではないのかと時折ふと考えては、愕然とした。そう考えると、まるで私こそが花井に操られている張本人のような気がしてならなかった。
2016/08/31
大阪のきんちゃん2
第116回芥川賞受賞。 かつての苛められっ子と苛めっ子が大人になって逆転した立場に。 看守と服役者の関係も場面設定が特殊ですね。立場は変わっても生来の性根は変わりません。心の闇を徹底的に暴こうとする主人公は、だからといって決定的な行動を起こす訳ではありません。やがて自分の心の闇にも気付いてしまいます。 優越感と劣等感が頻繁に交差する思考過程が巧みな文章で良く表現されています。読んでるこちらまで卑屈になったり見下したり・・・ 函館の夜の巷での女との絡みは、良く解らなかったんですが・・・
2020/01/16
mafuu
芥川賞を受賞作との事。辻さんの本は多分『サヨナライツカ』しか読んだことがないと思う。終始暗い雰囲気で刑務所での話なのに割とすんなり読めた。幼少のころの記憶というのは大人になっても蘇り、その時感じた屈辱は心から身体からも消えないものだと思う。大人になり転職先で出会った見る影もない服役囚である級友に複雑な思いを感じ、図らずも縛られる主人公。刑務所に入ってその身の自由がきかない花井の方が心の開放があるのかもしれない。
2016/06/13
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