海
海 / 感想・レビュー
まこみん
「風薫るウィーンの旅六日間」半日でも無駄にしたくない日程なのにそんなのあり!?オチに笑えたけど。「バタフライ和文事務所」漢字ならではの官能表現、左利きの謎の管理人との交流。こんなドキドキも有るのかと。「ひよこトラック」ラストの無数の色とりどりのひよこが印象的。脱け殻の処はちょっと引いたけど。「ガイド」何処か西洋の国の雰囲気。不完全なシャツ屋さんとか、題名屋さんとかおとぎ話っぽくレトロな感じも。少年が利発で健気でとてもママ思い。
2016/10/03
nico🐬波待ち中
7つの個性豊かな短編集。吉田篤弘・浩美夫妻作の爽やかで穏やかなイメージの装幀に合った、静かな水面を眺めているような心穏やかな余韻の短編が続く。中でも「バタフライ和文タイプ事務所」はマニアックな言葉が続きニヤリとしてしまった。そしてそんな言葉を遣ってひたすら真面目にやり取りする彼らにもちょっと苦笑い。「銀色のかぎ針」は短文ながらも祖母との何気ない温かな思い出にちょっとホロリ。そして「ひよこトラック」。男と少女の微妙で少し緊張感の伴う距離感がとても良かった。少女からの贈り物を男はこの先忘れることはないだろう。
2017/09/12
metoo
誰もが「はじめまして」で繋がり、「さようなら」で終わる。身体の形の淵をそっとなぞるように、心の淵をそっとなぞり、その人に寄り添い、二人の距離が温かくなる。「海」から始まる7つの短編は初めて会った人との交じりが記される。中でも「バタフライ和文タイプ事務所」は官能だ。「糜爛」の「糜」、「睾丸」の「睾」が壊れ、その度に取り替えてくれる活字管理人。想いは募り次は自ら壊す「膣」。壊れた「膣」の壊れた箇所に活字管理人の指が触れる時、私も息を詰めて「膣」となぞった。
2015/07/08
だまだまこ
静かで美しい短編集。彼女の実家に挨拶へ行った時の彼女の弟との相部屋の夜とか、居候先の6才の少女との交流とか、その時その関係の中でしか生まれなかった空気感がすごく伝わってきて、どの話も印象深い。特に「ひよこトラック」で無口な少女から蝉の抜け殻を差し出された男が、これは時候の挨拶か?自慢したいのか?プレゼントなのか?と本気で悩むシーンが面白かった。「ガイド」で思い出に題名をつける題名屋と少年の話はほっこり。ふと、子供を子供扱いしない大人って素敵だと思った。
2019/11/08
アイシャ
7編の短編。物によってはあまりにも短いものもある。人と人が出会う風景を切り取った美しい文章だ。『ひよこトラック』は、定年間近のドアマンが下宿先の物言わぬ孫と心を通わせる話。これが一番好き。さりげない出会いをここまで物語にできる文才に驚く。
2022/01/15
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