巡礼
巡礼 / 感想・レビュー
クリママ
ゴミ屋敷。第一、二章は、近所の主婦たちの心情が、第三章では、ゴミ屋敷の主人である老人の戦後からの半生が、淡々と、かつ、生々しく描かれている。地道に生きてきたはずだ。終戦後という時代のせいか、彼を襲った不幸のせいか、どこの分かれ道でひとの幸不幸が決まるのか。ゴミ屋敷は、やるせなさも、悲しみも、孤独も、何も言わなかった彼の叫びだったのか。結末は寂しくもあるが、安心もした。現実のゴミ屋敷の主人は何を思っているのだろう。
2021/03/21
安南
ゴミ屋敷に住む者の心の空洞など、小説ではよくあるモチーフだ。それでもこの小説が胸に迫るのは、それを一個人の心の闇と片付けず、この時代、この日本に生きる誰もが無関係では済まされない、陥るかもしれない闇として描いているからだろう。戦後や高度成長期の細やかなディテールの描写。予定調和に陥らず、けれど充分説得力のあるエピソード。ここには、三丁目の夕日的な絵に描いたような高度成長期はない。先日読んだ『橋』の前作にあたる本書、禍々しい描写から始まりながら読後は『橋』とは違い爽やかだ。
2013/10/16
どんぐり
時代は移りゆく。置いてきぼりをくらって、時代から取り残された者は、砂上の楼閣をゴミで固める。この作品は滑稽で風刺の効きすぎた話である。多分に劇画的にすぎるのが、難点とも言える。ゴミ屋敷から始まる第1章、次いで忠市少年の家族の発展史へと連なる第2章、そして最終章のゴミ山撤去に至る。老人のゴミ屋敷化は、認知症でみられることが多い。孤独感を募らせる人間の闇に深く入り込んでいない分、モノ足りなさが残る。
2013/12/26
小鈴
郊外のとある町のゴミ屋敷に住む老人忠一の人生とは…。第三章を読んでいて、電車の中なのに涙が落ちた。それにしても、橋本治は孤独を描くのがうまい。孤独を語らない/語れない男の異臭を放つゴミ屋敷は、生きることに空洞を抱えた男そのものである。最後の八行が良い。 つたない小説読みの私ですが、こう書ける人は橋本治と絲山秋子くらいだと思う。
2009/10/01
小鈴
近代の小説というものは「私」という自我があることが前提です。この小説の主人公には自我はありません。自我のない人をこのように書くことが出来るのかという驚き。近代以前では当たり前だった「個人としての自我がない人」が、近代化の中でどうなっていったのかということを丹念に描きます。まるで社会学の授業のように。取り残されてゴミ屋敷に住む男。二階の窓を開ける情景が美しい。ラストも美しい。ひたすら祈りたい。
2020/03/21
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