風聞き草墓標
風聞き草墓標 / 感想・レビュー
いつでも母さん
尊敬している父。大好きな父。されどその陰に非業の死を迎えた方がいるのなら、その20年前の汚名を雪ぐべく私は『真実』を知りたい。伝えたい。いつの世も自分が可愛いのは変わらない。だが、奸計をめぐらしたり、人の命を簡単に奪う権利はない。そうして得て守ってきた地位に苦しくは無いのか。お武家の妻・せつが巻き込まれる事件の数々。すべてはたった一つの真実に繋がっているのだが江戸、そして佐渡まで苦難の道を現在と過去に気持ちが行ったり来たりドキドキして先を急がせて読了した。幸せな結末ではなかったが十分読ませてくれた。
2016/04/20
baba
20年前に起こった勘定奉行荻原重秀の変死に父親が加担しているかもしれない疑惑に、娘のせつは事件の真相を知りたいと動き出す。現在と過去が交互に綴られる展開に始めは馴染めぬものの、時間を追う毎のせつの真実を知りたいと言う緊迫感に次第に釘付けになる。重秀の残した文書をめぐって次々に人が事件に巻き込まれていく。父娘の葛藤、武家の争いに巻き込まれた人々の不運が何ともやるせない。史実に基づくので、終わってみれば何も変わらぬ事にいら立つが、変わらぬ日々が愛おしいことに気付く。まさに風聞き草が全てを知っていたのであろう。
2016/05/21
みい坊
勘定奉行だった荻原重秀の死の真相は?面倒見の良い大好きな父がその死に関わっているのかと葛藤する娘。重秀の死から20年を経て掘り起こされた記憶。重秀の残した文書を巡り次々に死んでいく人。父の罪が明らかになったとしても真相をつかもうと決意した娘のせつ。佐渡奉行として赴任する父より先に佐渡を目指す過酷な旅と旅立ちに至る事件が交互に描かれる物語に読む手が止まりません。史実に基づいた物語とはいえ、荻原親子をはじめ多くの人の死を踏まえてなお、平穏が戻ったことで満足するしかない決着は、歯痒い思いを残すものでした。
2016/05/08
星落秋風五丈原
荻原重秀も知る人ぞ知るキャラクターなので、知らない人にはまず説明を。五代将軍綱吉の時代の勘定奉行(ソフトではない)で貨幣改鋳を行ったが、将軍が代替わりすると、六代家宣に仕える新井白石と対立し、遂に勘定奉行を罷免されてしまう。絶食して自害したとも言われているが、死の真相は明らかではない。小説はここに目を付けた。
2016/04/22
onasu
江戸前期、貨幣改鋳を断行した勘定奉行荻原重秀。その失脚から20年、その折の暗部を記した文書が出回ったことから、配下であった家の長女せつが佐渡島まで旅をすることに。 話しは、その旅とそうなった経緯が交互に綴られていく。当初は何故他家の旗本の正室が夫以外の男性と旅するのか首を傾げたが、読み進めると双方が佳境を迎えていく綴りに引き込まれた。 お家、ひいては家族を守るために、苦汁の決断をした者がいた。それがために苦杯を舐めた者もいた。そして後日、それを知る者もいた。歴史小説の妙味を堪能できる好著であった。
2016/07/07
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