渡りの足跡
渡りの足跡 / 感想・レビュー
jam
9月になると白樺峠でタカの渡りが始まる。サシバやハチクマ、ノスリが上昇気流に乗り高度を上げ滑空する「タカ柱」は圧巻だ。翔ぶ彼らを見るにつけ、北海道から嫁ぎ、病床の空に「鳥になりてぇ」と呟きながら、ついぞ帰ることなく逝った祖母を思い出す。梨木は、案内人に導かれ鳥の生態観察の旅をする。そして、鳥が自分の中にある星空により定位することに「案内するものは自分の内にある」と書く。軽々と境界を超える彼らに人を重ね、人も、還りたい場所へ帰ると筆をおく。たとえ今生で叶わなくとも、祖母の魂も懐かしい故郷へ帰ったに違いない。
2016/08/22
ヴェネツィア
読後も余韻の残る1冊だった。 鳥や生き物に、けっして感情移入するのではなく、静かに語っていくのだが、その視線は限りなく深い。 ハバロフスキウやカムチャッカから、冬の諏訪湖畔に至るまで、北を強く指向するエッセーだ。そして、そのことが文章全体の透明感を高めてもいるのだろう。
2012/01/25
しろいるか
梨木さんのエッセイは初読み。タイトル通り、渡り鳥の足跡を追い、知床や諏訪湖、ロシアに至るまで旅をする。鳥たちが危険を冒しても「帰りたい」と思う帰巣本能、温暖化や環境破壊が「渡り」に与える変化。それと寄り添わせるように語られる苛烈な人間ドラマにただの紀行もので終わらない深みを感じた。知床の空を悠然と渡るオオワシ。カムチャツカで見た同じ個体にまた出会えたかもしれないなんて、素敵だ。
2011/10/18
Rosemary*
渡り鳥を追いかけ旅したエッセイ。様々な鳥や自然への愛情と畏敬の念が美しく描かれているとともに人々の渡りまで多岐に及ぶ。静謐でキリリとした空気感が漂う情景が浮かぶようで寒い冬にピッタリの一冊。
2014/11/30
bianca
渡り鳥を見に行く紀行エッセイ。梨木さんのエッセイは初めてだったが、とても硬派な印象。知床に始まり知床に終わる構成は、渡りを意識してだろうか、戻ってきた感。目まぐるしく変わる自然環境を生き抜く野生動物達と、時に戦争や結婚などの波に翻弄される人々の人生をリンクさせており、考えさせられる。キリッと冷えた冬の描写の中にシリアスな感慨がある。とにかく自分の置かれた状況をただ全力で生きて、そして自然淘汰される…当たり前だけれど、普段は意識していないので、心に響く。野鳥は身近に沢山見られるのに、名前と姿が合致せず残念…
2013/12/29
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