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冬虫夏草

冬虫夏草

冬虫夏草

作家
梨木香歩
出版社
新潮社
発売日
2013-10-31
ISBN
9784104299096
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冬虫夏草 / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

人と自然とがかろうじて融和的な関係にあった頃、否、自然ばかりか人ならぬものや超自然までもがそこに共存していた頃のお話だ。物語は、綿貫征四郎の飄飄とした「軽み」の中に語られて行くが、そこにはまた人として生まれたことの「あはれ」が紛れ込む。ここでも、やはり人だけではないのだろう。生きとし生けるものすべての「あはれ」だろうか。かくも汎神論的な世界観が、物語全編に横溢するのだが、それはけっして観念的ではない。細やかな植物図譜と、そこに暮らす人々の営み、そして比良山系の時を経た地名とが静かな歩みを跡付けて行くのだ。

2013/11/07

しんごろ

『家守綺譚』の続編!今回は半年くらいどこかに行っちゃった愛犬ゴローを探す旅の話!綿貫が家守も原稿もほっぽりだして、鈴鹿まで探しに行くのだから、ゴローをどれだけ好きかわかりますね!ただ、旅がメインの話ですので、高堂、隣のおかみさん、和尚といった馴染みのキャラの出番が少なかったのが、寂しかったです(>_<)だけど、水墨画のような不思議がたっぷりのこの世界は心地よく、昔、TV番組でやってた『田舎に泊まろう』を思い出します(^^)やっぱり、BGMには『家守綺譚』同様、女子十二楽坊がはまると思います(^^;)

2016/11/26

へくとぱすかる

とにかく理屈ぬきで、今は消え去った時代の、自然や怪異との感触を文章の端々から味わうべきだろう。文士・綿貫が過ごす疎水端の家から、犬のゴローを探しに滋賀の能登川から鈴鹿山脈へと分け入るのだが、どんどん怪異と現実との区別がつかなくなる。混じっているというよりも、怪異あっての自然。友人・南川も科学者のはずなのに、この事態を不思議と思わなくなっていく。まるで冬虫夏草のように、菌と虫とが融合して一体となった姿と並行して。おそらくは民俗学の膨大な知識の上に立った作者の想像力に脱帽。そして白昼夢のような文章が美しい。

2021/01/28

風眠

心を澄まし耳を傾ければ、サワサワと聞こえる有象無象のちいさな囁き。闇は真っ黒で、木や花にも魂が宿り、風や雨にも感情がある。生きているもの死んでいるもの妖しのもの、すべてが繋がって森羅万象となる。そう、ほんの100年とちょっと前なら、きっと誰もが自然界に対しての畏怖の念をもっていただろう。今、生きている私たちも、綿貫征四郎と繋がり、100年、いや、そのずっとずっと前から繋がっている命なのである。大好きな『家守奇譚』の続編。表紙見開き、文語体の縦長の囲み文が意味深で、読み始める前から、わくわくさせてくれた。

2014/05/14

めろんラブ 

前作『家守綺譚』が万(よろず)の者の蠢きを内包した静の世界だとすれば、本作はその蠢きを余所で得る動の世界。タイトルの『冬虫夏草』がそのまま作品を貫く主軸をなし、出逢いに伴う交歓や愛しい伴侶に対する断ち難い想いが物語に彩を添え、趣深い逸品に。綿貫の”不可思議な出来事をあるがままに受け入れる才能”は、もはや悟りの境地。それは、徳の高い伴侶がもたらした慈雨であり、物書きとしての萌芽を促す。ふたりの関係の深化に涙。また、本作では幽玄の世界に垣間見える時代の趨勢が哀切極まりなく、私は時の移ろいを恐れた。

2014/03/24

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