平凡
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平凡 / 感想・レビュー
風眠
「もし、あの時、ああしていなければ」現在という結果に納得できなくて、つい想像してしまう、選ばなかったほうのことを。では選ばなかったほうに戻ってやり直せたら結果は変わるのだろうか?満足できるのだろうか?・・・たぶん答えはNOだと思う。生きていくことは、一日一日の積み重ねだ。その先にどんな事態があるかなんて、自分の意志ではどうにもできない。けれど、何も無い今日という日を大切に生きることで、積み重ねたその先を受け入れられるような器が、自分の中にできているかもしれない。もう戻れない人生の「もし」を描いた短篇集。
2015/01/18
ウッディ
あの時、違う選択をしていたら・・誰もが思い描くもう一つの人生を生きているはずの自分、漠然としたそんな切ない空想も、角田さんの手にかかれば、ほろ苦く、はっきりとした輪郭を持って、読者の心を揺さぶる、そんな6編の短編集。特に、行方不明になった愛猫を探す主人公に、「あの時、おにぎりを作っていなかったら」そんな、自分の後悔と気の強いを嫁を貰った息子と別れることのなかった夫との退屈な老後を送っているもう一人の自分を語る情報提供者を描いた「どこかべつのところで」は、依田さんの悲しさが胸を打ちました。面白かったです。
2020/06/20
きさらぎ
結婚後に素敵な人に出会ってしまったり、別れた恋人の不幸をちょっとだけ願ってしまったりすることはなくもない。踏み出す勇気がなかったり、踏みとどまれなかったり、幸せな日々を送っていたとしても、あの時違う選択をしていればと思う日はきっとくる。現実から少しだけ離れた世界への憧れや逃げ。でもその選択が、一つ一つ繋がりそのあとの人生に影響を与えていく。つらい選択は時間を止めてしまうことさえある。この本に出てくる人たちは、それでも人との出会いをそれっきりにはせず、前へ進んでいる。たとえ10年間同じことを後悔しながらも。
2017/02/11
milk tea
もしかしたら、もうひとつ別の人生があったかもと過ぎてしまったことを、いま「もしあの時…」と振り返る短編集。印象の残った『どこかべつのところで』。息子におにぎりを持たせるために急いで作った、所要時間6、7分。その時に乗ったバスが玉突き事故を起こし息子を亡くしてしまう。おにぎりさえ作らなければ、1本でも2本でも前のバスに乗れたのではと。10年毎日おにぎりを思い浮かべ自分を責めているのだろうか。終わりがないのはとても辛い。もし、あんなことしなければ良かったのに、ああすれば良かったのに、人生にはつきものですね。
2016/02/08
hiro
短編の名手といわれる角田さんの、もしあのとき何々をしていれば、逆に何々をしていなければ、もし出合った順番が逆であれば、違った人生があったのではと誰もが思う、そんな‘もしも’をテーマにした表題作『平凡』を含む6編の短編集。長編の場合、細かいところを忘れても大筋だけは覚えていることが多いが、一方、短編集の場合、一つ一つの短編についはほとんどを忘れてしまうことも多い。この短編集では、一つ一つの短編を忘れても、自分が‘もしも’を考えたときに、この『平凡』と書かれた石鹸?の箱を展開した装画を思い出しそうな気がする。
2014/06/28
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