雪の練習生
雪の練習生 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
難解な小説か?といえば、けっしてそうではない。寓話か?といえば、これもまた違う。では、何故ホッキョクグマが主人公の3代記なのか?といえば、この問いに答えるのはきわめて難しい。熊が選ばれたのは、単にベルリンのシンボルだから、なのかもしれない。そして、ホッキョクグマというのは、我々の対極に位置する哺乳類であるからなのだろう…おそらくは。この物語が小説としての醍醐味に溢れているのは、熊と人間の、そして作家と読者の、意思疎通をあえて分断した中で作品世界を成立させている点だろう。小説はそれ自身の力で自立しうるのだ。
2014/04/28
KAZOO
多和田さんのある意味大人向きの童話のようなのかもしれません。作品を読むたびにいつも驚かせてくれる作家さんです。ホッキョクグマの三代にわたる物語を収めています。読んでいるうちに何か不思議な感じを与えてくれます。読書の楽しみを与えてくれます。
2017/03/30
naoっぴ
とてもユニークな作品!三代にわたるホッキョクグマと人間のふれあいの物語なんだけれど、登場する動物たちは擬人化され、社会的に行動し人語も話す。こんな現実からかけ離れた状況は、まるで幼い頃に読んだ寓話や絵本世界そのものだ。ところどころに社会風刺を混ぜ込みリアルを感じるところもあるけれど、はて?深い意味などあるのかないのか。ただたゆたうような文章と情景に心を預け、クマの可愛らしい白いもふもふを愛でるのだ。幸せで心地良い物語だった。
2019/03/23
風眠
ホッキョクグマ、なのである。しかし、単純に擬人化した動物もの、というわけでもない。クマが語るクマの物語だ。第三章の、母親が育児放棄したために、動物園の飼育員に育てられたという設定は、実在するクヌートと同じだ。クマと人間という境界線が曖昧になっていくにつれ、言語、種族、ルーツ、そして書くことについて、ふと考えこんでしまった。本を閉じたあとも、表紙の真っ白い毛皮の残像が、ふたたびそんな疑問を運んでくる。細部にまで神経が行き届いた、死角のない、まさに「純文学」な作品と思う。とても幸せな読書だった。
2012/03/13
アン
移りゆく時代を背景に、ホッキョクグマと人間との交流を描いた不思議な物語。語り手は熊である「わたし」。「死の接吻」の章は甘美な世界で魅力的です。クヌートが母親から育児を放棄され、人間の手で愛情深く育てられる場面は実話と重なり複雑な心境に。熊達がサーカスや動物園で生きることから、束縛や自由という意味を考えさせられます。クヌートが物語の終わりで白い雪のひとひらに出会うシーンは、まるで故郷を夢見て突き動かされたようで、表紙の後ろの写真の表情にも心を打たれました。
2019/02/08
感想・レビューをもっと見る