ある一日
ある一日 / 感想・レビュー
chimako
思い出した。34年前娘を産んだときのこと。28年前息子が生まれたときのこと。園子さんと一緒に息を詰めたり、体の力を抜いたりしながらの読書。お産は命がけ。それを見守る夫はその時間を共有しながら父親になる。体内が軋む痛みを、しかし母親は忘れる。痛かったことなどすぐさまなかったことにできる強い生きものとなる。毎日新聞の日曜版に連載されているはいしいさんのエッセイには息子さんがよく登場する。この本を読み彼が親戚の子みたいに思えてきた。
2016/07/05
じいじ
京都に棲む、臨月を迎えた夫婦の「ある一日」を回想を紡ぎながら描かれた素敵な感動物語だ。43歳の高齢出産、奥さんの希望で自然分娩を。夫婦で立ち向かう陣痛の苦しみ。「いい調子です、ちゃんとおりてきていますよ」と沈着冷静な助産師の言葉に安堵しながら、10㎝の壁に挑む姿に「奥さんガンバレ!」と声援していた。お産をこんな克明に丁寧に描写した小説は初めての体験。感動の余韻がまだ消えない。初読みの作家だが、文体、情景描写に独特の個性を感じた。他作品を読んでみたい。「生みの苦しみ」云々と、簡単に言ってはいけないと思った。
2016/05/26
コットン
京都の生活の中で、直面した自然分娩は大変だけれどその中でも気分は楽しいことを考えようとした作品。『トリツカレ男』とはずいぶん異なっていて、女性目線な感じ。
2014/07/20
そうたそ
★★★★☆ 京都の鴨川近くの町家に暮らす四十代夫婦が子どもを授かる瞬間、その一日を描く一作。作中での慎二とは著者であるいしいしんじさんだろうし、勿論園子さんも実際の奥さん。こうやってひとひ君が生まれてきたのか……と妙な感慨に耽ってしまう。男性視点から出産の瞬間を描いているということで、出産を経験した女性が書くものとはまた異なるリアルさが感じられた。前半での松茸を食すシーンの日常的な穏やかさ静けさとは一転して、後半の園子さんの出産シーンは凄く動的でその描写もまた起伏に満ちている。まさに圧巻の描写だった。
2016/05/23
tomi
ある一日―40代の夫婦に赤ん坊が生まれる日。自然分娩を希望する43歳の妻の出産を、回想や幻想的なイメージを交えながら描き出している。前半は正直なところ退屈だったのだが、静けさから一転する陣痛から出産までの緊迫感溢れる描写に圧倒される(激痛の描写の連続に読んでいても疲れます)。自分がもし女性だったらこれを読んだら出産に二の足を踏みそうだ。◇織田作之助賞受賞、三島賞候補。
2016/05/28
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