赤い月 下
赤い月 下 / 感想・レビュー
NAO
【2021年色に繋がる本読書会】避難列車への空爆、中国人の反乱。女主人は、自分と一家を守るために、たとえ子どもたちの目の前であろうと、人道に外れたことでさえしなければならなかった。ようやく夫と再会しほっとしたのも束の間、夫は死に、また彼女の肩に全てがのしかかってくる。そんな重荷が負担だったのか、やがて、同じように引き上げていく特殊機関の工作員だった男性を愛するようになる。この氷室という工作員が阿片中毒になるのだが、必死でやめさせようとする主人公と氷室の絡みは、鬼気迫るものがあった。
2021/01/14
ちゃとら
【図書館本】なかにし礼すごい、迫力ある面白い作品だった。下巻は目を覆いたくなるような悲惨な状況下で死体を埋めた土饅頭、放置された死体の山を横目に見ながら生きて帰ってきた波子の強さに感動。阿片戦争さながらの日本軍がやってきた悪事、731部隊に送った捕虜達。何より驚いたのは巻末の参考資料の多さ。そして後書きの対談で、この作品の骨子は、なかにし礼さんの体験談だった事と、「こだま」「ひかり」「のぞみ」全て満鉄で考えていた名前だった事を知った。なかにし礼の他の作品も読んでみたい。
2024/05/05
あつひめ
波子の家族の環境の変化の凄まじさに読むのを休むことがでになかった。波子の中にある妻、母以外の女心の占める割合の多さにも驚いた。そのバイタリティーのみなもとはなんなのか。辛いはずなのに弱音をはかない波子。病に伏した中でも生きる。きっとたくさんの人ががむしゃらに生きた時代だったのかもしれない。戦争に振り回された運命。上巻と下巻であまりにも変化がありすぎて人の人生は計り知れないと思いながら読むのが止められない不思議な気持ちになった。
2020/02/07
あやの
上巻でも感じていたが、波子の生命力と精神力に驚く。歴史に翻弄されながらも、どこまでも自分に正直。嫉妬や不倫も辞さないし、そんな中でも子どもたちを守って、絶対に生き延びるという気持ちを持ち続ける。同性に好かれるタイプではないと思うが、その意志の強さはある意味あっぱれだ。満州の歴史の悲劇の中に多くの人生があったことを忘れてはいけない。公平君がなかにしさん。ご自身の経験がかなり盛り込まれている。
2017/12/17
メタボン
☆☆☆☆☆ 大杉の波子に対する愛、エレナと氷室の愛憎、波子の氷室に対する歪んだ愛。下巻は「愛」がゆえに人生が翻弄されてしまう人間像を過酷な戦争を背景に描いている。阿片地獄から氷室を救おうとする波子の生き様には強く惹かれた。巻末の参考資料も膨大な量であり、なかにし礼のこの作品を書き上げるにあたる並々ならぬ熱意を感じた。力作だった。
2021/08/16
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