クロニカ: 太陽と死者の記録
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クロニカ: 太陽と死者の記録 / 感想・レビュー
Norico
インカが、スペイン人に「発見」され、キリスト教文化に教化されていくまでのお話。読んでて、本当にあったことなんじゃないか、と思えるくらい真実味があった。ミイラとなって普通に話せるご先祖さまたちを持ち、文字を持たなくても都市を作る技術なんかは高いインカ人たちの宗教や暮らしが途絶えてしまったのはとても残念。
2015/08/22
三柴ゆよし
木乃伊が語る一族の歴史、あるいは<語り>の復権。征服者(文字世界)と被征服者(口承世界)の闘争を、奔放な<語り>を駆使して縦横無尽に描いた傑作。コンキスタドール萌え、滅びゆく帝国萌え(意外と多いと思うんだよね)の人にもオススメだが、後半に至るほど物語の超現実性は増し、インカ兵とスペイン人が血みどろの死闘を繰り広げる、まさにその頭上で、キリスト教の聖人とインカ大小の諸神が睨み合う構図なんてのは、不謹慎な気がしないでもないが、ちょっと他に類を見ないくらいカッコいい。
2011/08/20
可兒
日本では、某国の勇み足だったり某国の空爆だったり某国の侵攻だったりで、なんとなく『一神教の傲慢』が所与のものとして受け入れられている。その露骨な一面を露骨に切り取ったような本。 超常決戦もさることながら、魂の征服を掲げた身内にだけ寛容な宗教の独善性(これは今でも宗教に限らず幅広く共有されているが)がはっきりと表れている。スペイン語訳されるべき
2011/08/24
もぐ
図書館本。粕谷知世氏の初読本。インカ時代の最終盤を描くクロニカ。文字をもたずに豊かに暮らしていたインカの文化、そこに文字(神)が侵入してきたことによる変動。それらが混ざり合い、生み出され、つむがれるクロニカ(年代記、ブラジル文学辞典によれば、歴史的,個人的,想像的であれ生活のスケッチを口語的に語るもの)。インカの時代をミイラが語り、世界は引き継がれていく。インカ文明や滅亡についての本は初読で良い読書でした。文字と神と世界の成り立ちのパートが熱すぎて理解しづらかったのが無念。
2022/11/05
究理
久しぶりに手放しで絶賛したいファンタジーに出会えた気がする。独自に太陽の神を信奉するインカの民が、文字の神に従属するキリスト教徒に嗜虐され文明を奪われる有様を、ミイラという幻想的な概念を上手く用いてさも真実の史実のように描き切る。そして、それが事実だと心の底から信じられるほどに説得力のある描写は、膨大な資料による学術的研究と、淡々としつつも温かみのある文体によって成された技だろう。現世において、我々は悉く文字の神に支配されてしまっているが、太陽の民は最後まで勇ましく抗がった。その記録書である。
2013/01/29
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