父、断章
父、断章 / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
芥川賞作家で、小説巧者として知られる辻原登氏の7つの短編を収録。自伝的な内容のものが多い。いわゆる純文学に分類される小説だが、読みやすくて面白い。歯切れの良い文章で書かれ、鮮やかなイメージを残す。「夏の帽子」が一番の好み。文豪谷崎潤一郎の意外な面を教えてくれ、関西と関東の風土の違いをさり気なく織り込んでいる。結末のほろ苦い味わいが素晴らしい。そして、これは切ない恋愛小説でもある。一つの短編でこれだけのことをやってしまうとは、やはり小説巧者だ。
2016/02/03
三柴ゆよし
仮に『枯葉の中の青い炎』をコルタサルだとすれば、この短篇集は差し詰めナボコフか丸谷才一を髣髴させる洗練ぶりである。ぱッと見、エッセイか私小説風の「父、断章」とそれに続く「母、断章」は、しかし後者の末尾に用意された息を呑むほど美しい幻想の光景によって、一息に虚実の境界を越える。読者はこれまでのぼってきた梯子を中途ではずされたかたちだ。呆然とする。その他にも芥川かビアスの短篇をおもわせる「チパシリ」「虫王」、辻原登持ち前の叙情と技巧とが絶妙のせめぎ合いをみせる「夏の帽子」「天気」など佳作揃いの短篇集であった。
2017/03/25
yamahiko
地元で氏の講演があり、その前に一読。氏の小説は初読でした。 講演は既知のことが多く今回得ることは少なかったですが、小説は白眉。文章の心地よさを味わえたことは大きな収穫でした。
2017/11/26
やどかり
初辻原登。短編集だったが、いろいろな引き出しを持った作家なのかな、と思った。最初2編の両親にまつわるエッセイのような物語に続き、全く違う趣の物語が続いていた。辻原氏の故郷を描いた作品が多いようだ。「虫王」の最後には息を飲んでしまった。
2013/10/31
メルコ
7つの中短編を収録。事実を元にしてそこに虚構の世界を作り上げていく、その熟練の手法が鮮やか。読んでいて作り話のおもしろさにダマされていく快感を覚える。父母や生まれ育った南紀、作家生活など身近から題材にされ私小説の向きもある。私小説風、時代小説風、娯楽小説風と話によってスタイルを変化させている。「午後四時までのアンナ」「夏の帽子」「天気」も味わい深い。
2020/03/15
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