蕃東国年代記
蕃東国年代記 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
歌人(フラワーしげる)でもある著者の短編集。蕃東国という架空世界を共有し、ゆるやかな繋がりを持つ5つの作品から成る。蕃東国は日本海にある島国だが、時代は王朝期のようにも中世のようにも見える。全編ともに朧げな幻想譚であり、澁澤龍彦の小説を思わせないでもない。また、巻頭の「雨竜見物」は偽芥川の趣きを帯びる。この作品と巻末の「気獣と宝玉」が小説としての面白みにおいては一頭地を抜くか。ことに命の危険に身をさらし、苦労の果てに宝玉を手にするが、最後の最後で肩透かしが待っていた。これはなんとも鮮やかな幕切れである。
2024/04/10
エンブレムT
市川春子さんの麗しい表紙に惹かれ手に取りましたが、この表紙のイメージそのものの物語でした。世界は不思議に満ちていて、怪異は日常に溶け込み、人の心には夢魔がいる。河犬、河蜘蛛、天に駆け上がる雨竜。白い骨の魚は海を渡り、3つの宝玉は世界の果てに当たり前のように隠されている。平安の頃の日本と中国が混ざり合ったような架空の蕃東国(ばんどんこく)の出来事を淡々と記している5つの連作短編集。あきらかにファンタジーなのに、古典を読んでいるような気に・・・。面白く読みましたが、読了するのにとても時間がかかりました。
2011/09/07
財布にジャック
表紙の色使いがなんとも素敵で見惚れてしまい、読んでみたくなりました。西崎さん初読みですが、この方の経歴が素晴らしいのでビックリしました。ミュージシャンで翻訳家で小説家なんですね。そして、この本を読んでまたまたビックリしたのが、こういうファンタジーはなかなか書ける作家さんは少ないと思うんですが…。序盤は設定が頭になかなか入らず苦戦しましたが、古典のような懐かしさと、SFのような斬新さとで、なんとも不思議なつかみどころの無い作品ながら無事読了することが出来ました。
2011/11/10
Norico
日本と中国の間にあるかもしれない蕃東国。日本でいうなら平安時代かな?雨の中竜の仔が天にかえるのを見物したり、優雅な暮らしをしている宇内。美しいけどおろかな有明中将。不思議な世界にひたりました。最後の、美しい姫を娶るために宝玉を探しにいくお話は竹取物語のようです。
2015/07/28
キキハル
不思議な物語である。架空の国をあたかも存在するように語って見せる表現力と想像力に恐れ入った。国の書物や事典まで作ってしまう徹底ぶりが素晴らしい。平安時代に似た世界観は異国めいても懐かしくもある。言葉や語句の音が美しく文章に音楽的な流れを感じるのは、音楽の造詣も深いのだろう。しっかりと構築された話はどれも揺らぎなく凪いだ湖面のように静かだ。一字一句をじっくりと味わいながら読んだ。追いかける作家さんが増えたのがうれしい。読書の悦びを感じられる良書である。
2011/02/07
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