遮光
遮光 / 感想・レビュー
れみ
恋人を失った喪失感からとんでもない行動に出てしまった主人公の「私」の顛末。冒頭から、なにやら怪しげな瓶が登場してモヤモヤと不安な気持ちになり、呼吸をするように嘘に嘘を重ねる主人公の様子を見ていると、どこからどこまでが本当なんだろう…というそもそもの前提すら揺らいでしまうような、そんな感覚のまま大変な事態が起こり、…読み終わっても、うーん何だったんだこれ?っていうモヤモヤが。とにかく色々なことが気持ち悪く受け入れがたいと思いつつ読むのはやめられなかった。
2016/05/29
めしいらず
快活さが求められる世の中だから、人は自分の考えるそれを多少なりとも演じている。主人公も本来の陰鬱さで悪目立ちせぬよう、強いて普通を装う。けれど彼が演じ果せているつもりのその言動は、周囲の目には少々奇異に映っている。苦し紛れの言葉が拍車をかけ、境目が曖昧になり、遂には在処を見失う本心。誰とも心底では馴染めない彼が焦がれ続けた、皆が共有している典型的な人生の風景。惨めな胸の内を隠すよう光を遮った為に遠ざかる幸せ。人が幸せを感じるには、自分はそうだと信じ切る愚かさと、己を騙し果せる演技力が必要なのかも知れない。
2016/09/10
starbro
GWの余波での図書館の新刊配本の遅延により、最近マイブームの作家の一人中村文則の未読の旧作を7連続で読むことにしました!第一弾は「遮光」です。芥川賞にノミネートされたことからも解るように、心に突き刺さる刺激的な作品です。愛していた両親、恋人の喪失感から狂気至る主人公の凄まじさを淡々と描いています。殺した恋人の局部を持ち歩いていた阿部定にも通ずるものがあるのかも知れません。
2015/05/13
キク
小さい頃の心の傷から、うまく回復出来なかった男が、どのように社会を歩いていくのか?主人公は、間違った形でしか、歩いていくことが出来なかった。その傷ついた心を抱えたまま、主人公は壊れたままに自分や周りを傷つけていく。でも、それでも。それでしか歩いていけないなら、歩くしかない。自殺は社会に対する敗北だという中村の覚悟が、この作品と主人公に表れている。たとえ、不格好で間違っているあり方だとしても、歩いていくしかない。
2021/12/05
てんちゃん
悲しいことがあったときに、悲しい小説を読むと、本が自分に寄り添ってくれるようで、少し救われるような気持ちになります。読んだタイミングもあってかもしれませんが、途中から涙が止まりませんでした。中村文則さんの小説はどこまでも暗いですが、そこに温もりが感じられて、好きです。
2017/10/24
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