舶来屋
舶来屋 / 感想・レビュー
真理そら
戦後の金融事情に左右されながら日本にブランドを定着させたサン・モトヤマの創業者・茂登山長市郎の一代記。この作品が発表された当時は長市郎氏も存命でサン・モトヤマも存在していたのに、今は両者とも失われてしまった。日本での販売権を得るために粘り強く交渉し日本に根付かせたのに、グッチが代替わりしたら日本で現地法人を作るから販売権を返せと一方的に要求したマウリツィオが登場した時「おお!」と思った。若い二人を聞き役として話を進める構成はいいが、男は銀座の和紙の老舗の跡継ぎで美意識もあるが、女のキャラには違和感がある。
2023/05/09
クリママ
サンモトヤマ創業者、茂里谷こと茂登山長市郎氏の半生。若い2人に語り聞かせる形で進行する。出征した中国、帰国後闇市で商売を再開する。食べ物も満足に手に入らない時期に高級な靴下を買う人、その後のサンモトヤマの客層の厚さに驚く。海外の高級服飾品を扱うだけのセレクトショップの先駆けと思っていたが、エルメスやグッチと販売契約を結び初めて日本に紹介し、セリーヌやエトロを育て、デパートの特選品の一角を築いたのも茂登山氏だった。若い二人が必要だったのか疑問だが、テンポのある文章、昭和史を辿る意味でも、とても面白かった。
2019/07/16
まつうら
海外ブランド品の流通といえば、日本法人によるメーカー直販が一般的。なので、茂登山長市郎がエルメスやグッチの国内販売をしていたのはまったく知らなかった。「僕は奇麗なものが好きなんだ」こんな思いでイタリアに通い詰めた長市郎は、逞しい商魂でついにグッチの販売権を獲得する。しかし転機となる1981年、グッチやエルメスが直販に乗り出してきた! このときの悔しさや無念の思いは、想像に絶するものだと思う。ところが長市郎は、感謝を込めて販売権を返却する。とても潔い長市郎に驚くとともに、清々しい姿に心を打たれる作品だ。
2022/04/25
なゆ
再読。本の題名を覚えていないのに、あの話をもう一度読みたいと思い出すのは珍しいです。サンモトヤマの創業者、茂登山長市郎氏がモデル。戦中の生々しい話、戦後の日本の復興、銀座が今の姿になるまで、欧州ブランドの進出、どきどきわくわくします。小説でありながら、戦後の日本経済を学べてしまうほどです。反省はするけど後悔はしない。悪い思い出を忘れてしまえば、人生にはよい思い出だけになる。どんな環境でも、自らを変え、前に進んでいくしかない。ピンチはチャンス。スペシャルドラマとかにならないかな。
2017/02/08
hanagon44
第2次大戦前後の過酷な状況を生き抜く中で得た様々な信念や知恵を随所にちりばめてあり,非常に考えさせられた。「失敗かどうかは,自分が決める。限界は自分次第だ」などは,言い古された感もある言葉だ。しかし,戦地での幾多の絶体絶命の危機,各復員兵が3人分の遺骨箱をもたされた帰国船,国や家族を守るために戦い抜いた果てに見た東京の焼野原。生かされ,戦死した者たちの想いを胸に生きることに真剣に真摯に向き合い,大切に丁寧にじっくりと取り組んだ生き様から発せられる言葉は,説得力を持って胸を打つ。自分なりの生き方を考えたい。
2014/07/12
感想・レビューをもっと見る