そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所
そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所 / 感想・レビュー
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表紙とタイトルから、もっと怖い作品なのかと思っていた。しかし予想に反し、それぞれの作品を読んで感じたのは孤独と寂しさだった。ある意味表紙通りなのかな。黒と白、そして灰色で作られた世界ばかり。その世界の中で、荒々しさや情熱、愛しさ侘びしさ、淫らさが入り混じったものだった。腐った桃の匂い、荒れ果てた部屋、女のひかがみ、水の冷たさ。嗅覚、触感、視覚、すべてが静かに刺激されるようなそんな短篇集だった。所々読みづらさがあったり、まったく合わない作品もあったものの、読むのを止めようとは思えなかった。
2015/04/02
あきつ
不思議な世界を不思議な文体でつづった12編の作品たちは、フランス文学者であり詩人でもあるという肩書きをお持ちの作者なら頷けます。読み手のその時の気持ちの持ちようで、戒めになったり希望を見出したり後悔や絶望したり…と、たくさんの色が見えるよう。手元に置いて何度も何度も読み返したくなる欲求が湧き起こります。
2015/12/03
sankichineko
生きながらじんわりと腐ってゆくような話でした。マンションの一室で、売春宿で、ディスコの片隅で、作家もSEも作曲家も詩人も、それぞれに生きながら死んでいる。そんな感覚。文体も題材も私の好みですが、女性の体の一部を取り上げて、「ひかがみ(膝の裏)のきれいな女は今はいない」とかいうのは、似合う人と似合わない人がいるのでやめたほうが。以前の作品でも思ったけど、こういうのは東大の教授には似合わないですよ。久世光彦さんみたいな粋な人が言うのでないと、ただのおっさんの酒の席での愚痴に聞こえます。
2014/12/06
浦
死がまとわりつくような短編集。独り身の男にまつわる物語が殆どになっている。小口は真っ黒で極めて禍々しい装丁の本だが、過去、薄暗さ、性、母、といった繰り返しでてくるテーマは、大抵過去を彷徨っている独身男性の精神的要素をよくあらわしていて、意外に読みやすい。ただ、ホモけ多すぎ。著者が年なためだろう、独り身の男を中心にしながら、恋人経験のない主人公を登場させない所が、時代の違いを感じる。作中の詩の凄みに呆然。
2016/07/15
kozy758
得難い短編集だ。シカケは一流である。含まれる詩がセンチメンタル過ぎない野趣があり、いい。松浦に限らず文学はいいなと思える。『モーリッツの銅版画』『逢引』『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』が特に良かった。『半島』といい、装丁がまた気に入った。黒で染められている。
2017/03/30
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