明治の表象空間
明治の表象空間 / 感想・レビュー
gorgeanalogue
長かった。いろいろ知らないことが書かれていて、部分的に新鮮なところもあったが、結局は冴えているとは言えない「逸脱した・裸形の・穴」を「出来事」の寓意として称揚する80年代フランス文学者の「感情教育」で、そのポストモダンを復習しながらの行論にも文体にも魅せられない。その「つまらなさ」は著者の小説『半島』に似ている。一葉論の通り一遍さには鼻白む。結論の「この本もまた理性的な言文一致体で書かれねばならなかったことにアイロニカルな無力感」には意気阻喪する。「明治の表象空間」なら、明朝体から始めるべきだろうに。
2022/12/21
ひばりん
ダメな本を読んだ。読むこと/書くこと/思考することを一元化する言文一致体という近代精神を批判し、近代に回収されない文学的実践を透谷らに見出していくわけだが、そもそも思考と読み書きが一致したことなど歴史的にあっただろうか?思考は前言語的な感覚を多分に含んでいるし、言語も思考を超える。末尾で「この本もまた理性的な言文一致体で書かれねばならなかったことにアイロニカルな無力感を覚える」旨が告白されるが、無力感を覚えるのは徒労した読者のほうである。日本語書きとして無力ならば、批評や創作を諦めて引退したほうがいい。
2020/11/19
鏡裕之
カント、ヘーゲル、ベンヤミン、ドゥルーズなどの哲学者の言葉や考えを引用しているが、非常に中身が薄い。東大教授を務めていたことはあって学識はあるが、あまりにメタレベルが低く、分析も浅くて、読むに耐えない。神の視点のように全編を貫き通す統一的な思考は、微塵も感じられない。力量不足メタレベル不足のフンコロガシが、明治の表象空間というでっかいフンを転がそうとして、その重さに潰れてぺしゃんこになりました、という一冊。場当たり的な理屈と衒学と冗長に突き合わされるだけ。タイトルは『松浦の冗長無能空間』と改題すべき。
2014/09/25
Shosei
表象とは?読み始めはタイトルの意味さえ理解できていませんでした。明治初期。国体、新律綱領、教育勅語、帝国憲法によって国民思想が形成された過程を説き、薬草学から生物学への変遷をたどり、兆民や一葉の作品から当時の社会を読み解く。一見無関係の諸相が、読み進めるうちに連関し、冒頭で作者の言う「表象がかたちづくっていた意味作用のネットワーク」が腑に落ちてきます。当時は発達途上の日本語で書かれた表現=表象を読み説き並べることで近代日本の成り立ちを描出し、巻末でそれが現代日本と地続きだとする作者の筆の運びにゑひました。
2019/12/29
天婦羅★三杯酢
ようやく読了。明治という時代の豊穣さを、文学者の文章のみならず内務省の文書やら当時の新聞やらまで総動員して表している。もっと読みこなすためには多分あと10年ぐらいは図書館にこもりっきりになって本書が参照する全ての本や文書に当たらないといけないんじゃないかとは思うけど、さすがにそれだけやるとそれだけで人生が終わる。ある意味、この本さえ読んでしまえばそこまでやらなくてもいいというだけでも、この本を読む価値はあるのだろう。
2014/06/22
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