名誉と恍惚
名誉と恍惚 / 感想・レビュー
MICK KICHI
日中戦争時の上海を舞台に、出生の秘密を隠したまま警察官として赴任してきた芹沢一郎の数奇な半生を綴った物語。権力と欲望が渦巻く租界では、絶対悪も正義も存在しない。計略に巻き込まれアイデンティティを剥奪され、運命に翻弄される描写が際立っている。ハードボイルドタッチかと思いきや、同じ轍を何度も踏む不甲斐無さがあり、生きる事への根源的な執着の希薄性が何とも不思議な感覚を生む。「」抜きの会話、芹沢の心理描写、性に関わる記述も独創的で魅力がる。主人公の挫折からの名誉回復と生命を感じる極限状態の恍惚を見事に描いている。
2018/10/18
NAO
この作家さん初読み。カズオ・イシグロの『私が孤児だったころ』、J・G・バラードの『太陽の帝国』と戦時中の上海が舞台の作品は多く、上海の妖しさの中行き場をなくし自分を見失っていく人々が描かれているが、この作品でも、日本軍の横暴の中、自分が誰であるのかも分からなくなるようなあやうさ、あやふやさの中でもがく青年が描かれている。自分が信じていたものが覆されて足場を無くしてしまう人間もいれば、常時では考えられないような妄想に取りつかれそのためには何をしてもかまわないという狂信者も出てくる戦争とは、本当に、恐ろしい。
2017/10/28
ちょき
700ページを超える長編大河小説。永久保存版といったかんじの豪華な装丁。朝鮮人の父と日本人の母との混血に生まれた主人公芹沢。警察官として事変後の上海に駐留するも罠に嵌り、日本人としての誇りも名誉も喪失してしまう。こうして読み終え、小説を通じて主人公から日本人として生まれ日本に育っているお前はどうなんだ日本人(ザベンニン)。と問われてるようだ。男色な部分は少し難があったが本年のマイルストンとして読むべくして読んだ小説。じっくりと堪能し、かみしめることができた。
2017/06/03
keroppi
筒井康隆さんの書評を読んで、読みたくなった。760ページもある作品で、持ち歩くのも重たかったが、主人公芹沢の視点で語られる戦時下の魔都上海に引き込まれてしまった。芹沢の巻き込まれる「ずぶずぶ」の波乱万丈の人生。描かれる音楽や映画や情景の魅力。人としての尊厳と恍惚感。戦争そのものは描かれないのだが、戦争の底なしの怖さや理不尽さは描かれる。とにかく、先を読みたくて仕方がなくなった小説だった。
2017/08/26
マムみかん(*感想記入少なめです*)
松浦寿輝さん初読み。 書評で興味を引かれたのと、この時代の上海モノ(伴野朗さんの「山城太助」シリーズや、森川久美さんの「蘇州夜曲」シリーズ等)が好きなので手に取りました。 いやいや、重かった…本が(笑)。 内容的には冒険小説だから読みやすいけれど、とにかく本の重さが集中力を削ぐ~~(笑)。 でも、頑張って読んで良かった。 ラストの一文が格好いいです☆
2017/08/25
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