かたみ歌
かたみ歌 / 感想・レビュー
紫 綺
昭和という郷愁は、懐かしさと共に死者も連れてくる。昭和30~40年代のアカシア商店街を舞台とした短編。あの世とこの世を繋ぐと云う噂の、覚智寺という小さなお寺界隈で起こる不思議な物語。そして「心の旅」は続く・・・。
2013/09/28
しろいるか
昭和3,40年代の商店街を舞台にした7編の連作短編集。7編にはいずれも芥川龍之介に似た古本屋『幸子書房』の老主人と、あの世と繋がっているという伝承のある覚智寺が登場し、それぞれの物語も相互にリンクしている。『栞の恋』が『世にも奇妙な物語』でドラマ化されたが、全編そのような不思議な雰囲気、そして背筋がぞわりとする。『夏の落し文』と『ひかり猫』が切なく哀しい物語で印象的。繰り返し出てきた「アカシアの雨がやむとき」という曲を検索し、聞きながら読むと一層世界観に浸れた。
2011/10/28
ゆみねこ
アーケードのある古いアカシア商店街。その近所に住まう人々の連作短編。古書店「幸子書房」の主人の謎が最後に明かされちょっと切なかったですね。世代的には私とほぼ同世代、昭和の人間には懐かしい1冊です。「ひかり猫」「枯葉の天使」が好き。
2016/02/03
ちはや@灯れ松明の火
耳の奥で甦る懐かしい調べは、積み重なった日常の底に埋もれた遠いあの日、あの場所へとつながる扉。行き交う人で賑わう夕暮れの商店街、その足元に落ちる黒い影、生活と隣り合わせの拭えない死の予感の如く。街角にそっと佇む亡き家族の姿、光の球となった孤独な魂、古本越しに時を隔てて伝わる言葉、身体というかたちを失い取り残された心がそっと寄り添う。今だけは、今だけでも、寂しさをあたため合えるように。与えられた生命が尽きる日まで、取り遺された彼等が前を向いて生きていけるように。思い出を歌へと変えて、心細い時には口ずさんで。
2010/12/04
nyanco
東京の下町・アカシア商店街。古本屋・幸子書房と覚智寺がキーポイントとなって物語が進む連作短編集。これから毎年、彼女と紫陽花の花を見て生きていくのだと思っていた。ささやかながら二人の暮らしはずっと穏やかに続くと思っていたのに…ふとしたことがきっかけで何かが壊れたり、気持ちが変わったり、一度手放したものをもう一度…と願ったり…、ホラーっぽい展開ながらも人の心の機微を表現した『紫陽花のころ』素敵な作品でした。『夏の落し文』は朱川さんらしいホラー色がありながらも兄弟の想い合う心がしみじみと伝わってくる良作。続→
2010/09/13
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