ナボコフ・コレクション 賜物 父の蝶
ナボコフ・コレクション 賜物 父の蝶 / 感想・レビュー
燃えつきた棒
『賜物』は、先日同じ沼野先生訳の『賜物』(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)を、読んだばかりなので、今回は、ナボコフがその付録の一つと位置づけている「父の蝶」と巻末の解説のみを読んだ。 「父の蝶」: 鱗翅類学者である父の業績に関する手記の体裁をとっている。 学術論文を読んでいるような、ある種難解な読み心地だが、ナボコフの蝶への愛が溢れている。
2022/01/26
井蛙
父はもはや憧憬の対象としてしか蘇ることのない過去の他者だ。父の伝記に挫折した主人公が『チェルヌイシェフスキーの生涯』を書くのは(現実を芸術の上に置きながら、全般的思考に飛びつくあまり当の現実を取りこぼす知性上の怠惰を終生矯正できなかったという彼は、まさに父のアンチテーゼのような人物である)、少なくともそうではあり得なかった父を描くというある種の代償行為のようだ。さて『チェルヌイシェフスキー』の出版によっていささかスキャンダラスなキャリアの第一歩を踏み出した主人公は、ついにコンチェーエフとの対話を実現する→
2020/02/15
井蛙
ウィットに富んだユーモア、軽業師のような比喩、至るところに散りばめられた意匠、そして何より天才的な言語感覚に裏打ちされた豪奢な文体…そのすべてが最良のナボコフだ。けれど僕が彼の作品の中でも『賜物』をもっとも愛しているのは、言葉の隅々から発露する瑞々しい感情の清真さゆえなのだ。あまり克明に描きすぎたために現実と区別のつかなくなった夢想、自己の才能への疑念と過信の間で揺れ動く自尊心、幸福へと近づくにつれいよいよ高まる逆説的な気後れ、人生そのものに対する抑えがたい渇望と讃歌、そして死に対する控えめな目配せ…→
2021/03/01
ボウフラ
この作品を十全に理解できたとはとても思えないが、難解な中にも読んでいて心地よい気分にさせてくれる文章である。ストーリー展開的にはあまり起伏がなく、「魔の山」のような雰囲気の学術小説といえるのではないだろうか。85点
2021/09/27
さんぽ
架空の人物が書いた実在の人物の伝記を読むって不思議だ。『賜物』自体フョードルが書いた小説かもしれなくて、私がこの作品を読んでいる現実までもが小説の一部なのでは、というような奇妙な気分になる。私のいる現実の外側にも現実があって、そこから誰かが私を読んでいる、みたいなことを想像。
2024/09/15
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