闇の中の男
闇の中の男 / 感想・レビュー
ガクガク
けったいな世界が転がっていく。9.11のなかったもう一つのアメリカ。そこでは激しい内戦が繰り広げられているが、その戦争は主人公が毎夜想像の中で作り上げている架空の物語なのだ。しかし、それが「もう一つの世界」として現実化し、物語の中の主人公の男は、その物語を空想する主人公の暗殺を命じられる。一方、現実の世界で空想する主人公は、苦しみ悩む娘と孫娘を抱え、自らも妻との離婚・再会を乗り越えてようやく生き直そうとしている。9.11以後のアメリカに対する期待と失望、批判が垣間見える。引用された『東京物語』が興味深い。
2014/09/22
NAO
ニューヨークに住み、9.11で深い心の傷を負った老人と孫娘の話。あまりにも大きな惨事は、想像を絶する重さで多くの人の心にのしかかったまま心を蝕み、人はその呪縛から抜け出せなくなる。それでも、辛く、淡々と続く日々との中に、かすかな光が見えてくる。
2019/09/08
コットン
目を開けると小説家の物語の中にあるもう一つの世界だった。そして今の世界から過去を思ったり今の世界にあらがったりしながら物語が進展する。 孫娘がおじいちゃん(老作家)と小津の映画『東京物語』について7ページにわたって言及したり、孫娘が老作家におばあちゃんの事を聞いたりするシーンが心に残る。
2024/08/29
どんぐり
けったいな世界が転がっていく。「イスラム国は米国人記者のジェームズ・フォーリー氏の処刑映像を公開し、それを見た者には屈辱を与え、見ない者には恐怖を植え付けた」これは現実のいまの世界だ。9.11以降、死を伝える映像が繰り返し流され、ほかの映像で消してしまわないことには、どうやっても追い払えない闇の中の男が生んだ物語。小津の『東京物語』――いい人間だけが自分の善良さを疑う。悪い人間は自分の善良さを知っているが、いい人間は何も知らない。彼らは一生涯、他人を許すことに明け暮れるが、自分を許すことだけはできない。オ
2014/08/26
トラキチ
原題"Man in the Dark"。幻影の書やオラクルナイトほど難解ではないが、作者得意の物語内物語を駆使して読者自身の人生を振り返ったり背中を押してくれる作品である。作者の作品を読み度に理解できるかどうか覚悟を決めて読む必要があり、その覚悟が心地よく自身の読解力を試すテストを受けているように感じる。 本作も短い長編ながら、色々なことが散りばめられていて、読者にとって有意義な読書体験をもたらせてくれるが、それには柴田氏のまるで作者が日本語で書いたかのように感じさせる翻訳力の高さが寄与しているのだ。
2020/03/24
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